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77.真面目な社員が辞めていく仕組み

社長がいなくても回る工場は
文脈や行間が伝承される
社長がいないと止まる工場は
上司がAIに代替可能

ある工場の管理者会議でのこと

新製品の生産ラインで、クレームが発生し、その状況報告が行われていました。
参加者は、その生産ラインの担当者Aさん、品質管理の管理者Bさん、設備保守の管理者Cさんと社長の4人。

担当者は、「自分の責任で申し訳ありません」と何度も頭を下げながら、その時の状況を詳しく話しています。
自分があの時こうしていればよかった、普段からこのようにしていれば気付くことができた、あの場から離れなければ・・・などなど報告してくれます。

しかし、社長はずっと首をかしげています。担当者が何を言っているのかわからないということではないようです。謝罪ばかりが伝わってきて、当時の事実や背景が全く見えてきません。

上司のBさんに話を振ると、こう返ってきました。
「あの時、自分はその生産ラインにいませんでした。それに、○○の加工は担当者であるAさんに任せていたので、普段通りやってくれればそんなことにはならないはず。だから私もAさんに聞かないとわからないんです」

そして続けて、その時の状況がわかるのはAさんだけなので、原因の特定をしてミスが出ないように対策を考えるよう、Aさんに指示を出している、と言うのです。

社長は、「またか」とがっかりしています。

過去のデータはあるが、過去のノウハウは残らない

担当者が、職歴も社歴も浅ければ浅いほど、今までの「経緯」を知りません。

例えば、最近頻繁に発生している災害。この教訓を生かそうという取り組みは全国のあちらこちらで行われています。広島や長崎の原爆のこともそうでしょう。
「次に大きな地震が発生し、大きな津波が来るかもしれない状況になったときには、こんな行動をしよう」あるいは「絶対に二度と同じ過ちを繰り返さないよう、日頃からこんなことを忘れないようにしよう」などのように、過去の教訓を生かしてそれを次の行動に反映させます。

しかしこれは、過去に発生したことがあるという「記録(データ)」だけでは絶対にできないことだと私は考えています。そこには、人間の感情がたくさん詰まっているからです。

被災した人たちがその時どのような思いをしたのか、その当時からどのようにして立ち直るためにがんばって来たのか。これらを考慮せず、単に高台に逃げなさい、そういう単純な記号のような話ではないはずです。

話は飛躍するようですが、生産現場でも同じです。
過去にトラブルやクレームが発生してその対策のために修繕した、こんなヒヤリハット事例があった、という記録だけは残っているかもしれません。
しかし、その時の細かい修繕内容、言葉にしにくいノウハウの裏に「修繕しなければならない状態になったとき、どんな思いで対応したのか」「納期が迫っていたので夜遅くまでかかってようやくやり切った」などという、その時点での気づきや思いがたくさんあるはずです。

それだから、ベテラン社員にとっての作業指導は、「あのネジを外してこの部品をつければいい」というそういう簡単な話では終わりません。それが技術伝承のハードルを上げているとも言えますが、とても大事なノウハウなのではないでしょうか。

AIが上司の仕事の何を奪うのか

過去にどんなクレームが発生したのか、どんなトラブルが発生しどのような処置をしたのか、そのようなことは例えば設備の保守履歴に記録されていたり、クレーム対応の記録に残されていたりするでしょう。
したがって、これがデジタル化さえされていれば、AIは問題なく読み取り、過去の履歴として瞬時にあなたに教えてくれるでしょう。

しかし、その時々の問題に直面した人たちの「感情」はどのようなものだったでしょうか。「もしこのクレームがリコールにまで発展するような大事だったらどうしよう」「部品ひとつ欠けたまま何万個と気付かずに生産していたとしたら、どこまで影響があるのか」「自分の仕事が人に迷惑をかけてしまうかもしれない」「復旧が間に合わなければ別も問題にまで発展してしまう」・・・そんな危機感状況を経験したことがあれば、その時の危機感や恐怖感は忘れられるものではないでしょう。

重要なのは、AIが、この感覚や経験まで読み取ることができるでしょうか。拾った過去のデータからその文脈や行間まで説明することができるでしょうか。

これは若手社員も同じです。
リーマンショックは今や、教科書に載るほどの過去の話になってしまったようです。したがって、そのときに大変だったという事実は学んでいるものの、その大不況を経験した社長の思いや社員の思いまで、リアルに想像ができるでしょうか。

生産現場で過去に発生したクレームやトラブルについて、対策や手段(データ)だけ教えられても、実際のところはそれと似たような経験をしなければ「そういうことか」と納得することはないでしょう。
「津波が来そうになったら高台に登れ」という対策や手段だけ教えられても、その当時の危機的状況までセットで伝えなければ、それを実行することは難しいのと同じです。

そして、AIにも伝えられない、経験したこともない、情報も持ち合わせていない人に、「本当のこと」を伝えるには、やはり経験した人やそれを伝え聞いてきた先輩や上司が、当時の情景を思い浮かべさせるかのように言葉で語ってあげるしかないのではないでしょうか。

そうです。これができない上司は、全てAIに置き換えられるのです。

無能な上司

部下が、「自分が担当なのだから申し訳ない」と謝ることは人として自然なことです。しかし、現場の部下がどうしてもコントロールできない理不尽な状況や仕組みの欠陥は確実に存在します。

それをあらゆる情報や経験から読み取りフォローするのが上司の重要な役目です。
それなのに、部下が謝っているからとそれに乗じて、「今後は気をつけろよ」と忠告のふりをした責任転嫁をするのは完全に筋違いです。

そして、真面目で責任感のある部下ほど、「自分の担当の仕事は自分が完璧にしなければいけない」「問題が起こればそれは自分の責任」と考え、全てひとりで背負い込もうとします。理不尽なことでも上司にも頭を下げます。

それを見て「お前がちゃんとしていなかったからだ。お前が最後までやれ」「なぜそのときにこうしなかったんだ」と部下のせいにすることは、これは紛れもなく自分の管理能力不足を自ら主張しているようなものです。そしてそのような上司はそれに気づきません。
このようにして、無能な上司は「組織の構造欠陥」を自ら露呈してくれるのです。

真面目な社員が辞めていく仕組み

このような状況が常態化すれば、当然部下の方がやってられなくなります。
部下の退職の理由のほとんどは、仕事内容そのものではありません。人間関係であり、上司との関係はかなりウエイトを占める決定的な要素です。

こうした組織で起こるのは、「仕事をミスした無能な部下」という評価を上司ができてしまうこと。これを断ち切らない限り、退職の連鎖は止まりません。

そしてこの問題を解決するには、社長がその真面目な部下に「本当のこと」を教えてあげなければいけません。

「あなたの真面目さと責任感の強さが、結果的に、会社が抱える重大な問題を、あなたが意図せず隠蔽していることになってしまうんだよ」

ということです。
人のせいにしない、悪口は言わない、とても素晴らしい人格の持ち主ですが、残念ながら先ほどのような上司を育ててしまうのです。自分のことは棚に上げ、ツケ上げる場を提供しているのです。

当然、この構造改革を部下には任せてはいけません。
彼らは今も、ひとりで責任を背負って苦しんでいます。

社長、すぐに動いてください。

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