社長がいなくても回る工場は、純粋な情報を十分集める
社長がいないと止まる工場は、声の大きさで判断が偏る
今から15年以上前の話です。
社長としてかなり未熟だった当時の自分は、仕組みを作るとか全体最適化を考えるとかそのような考えに至っておらず。自分も現場に入って、少しでも多く生産ができれば売上の足しになると考え、現場の社員と一緒に生産ラインに入り作業していたのです。
しかし、そのままでは「社長の仕事」ができないと考え、現場から抜けたばかりのことです。
現場から離れたとはいえ、社員との距離の近さは重要だと考えて、現場に足を運び、社員からの相談には精一杯首を突っ込み、親身に対応するよう心がけていました。現場から離れたばかりの時は、自分が抜けたことで社員に迷惑をかけてはいけない、とまで思っていたものです。
そのような状況の中、現場歴の長いおばさん社員Aが、私のところに来て現場の状況を教えてくれました。
社員A「Kさんが日勤の時は現場はよく回るのに、Mさんが日勤の時は途端に設備が止まってしまう。どうにかならないか」
というもの。
Aさんは多くの生産設備に対応できるベテランとして管理者からの信頼も厚く、困ったときにはAさんにお願いすればすぐに対応してくれる、という確立した地位をもつ人でした。
そしておじさん社員Kさんは、Aさんが動かす設備にトラブルがあると、自分の仕事も忙しい中、嫌な顔ひとつせず復旧作業をしてくれる、息の合ったふたりでした。
Aさんからの報告の数日後、若手社員Bさんまで、同じようなことを私に報告しに来たのです。若手社員BさんはAさんにいろいろ教わりながら作業している物覚えの良い社員でした。
これはちょっと軽く見ていてはいけない事態だと思い、Bさんの話に続けて、状況をさらに詳しく聞くことにしました。
状況はこうです。
設備トラブルが発生したとき、Kさんなら、お願いするとすぐにその設備に来て対応してくれる。しかし、Mさんの場合は、「わかった」と話だけ聞いて、そのまま自分の作業を続け、なかなか頼んだことに対応してくれないとのこと。
このままではいけないと思い、私はKさんMさんを呼び状況を聞くことにしました。
Kさんに聞くと、「設備がよく止まってしまうので、なんとかなりませんか」とそれぞれの設備の状況を明確に提示されました。設備の問題点もよく把握しておられます。
一方でMさんは、技術はあるけどなかなかうまく喋ることができません。状況を詳しく聞こうにもなかなか答えが返ってきません。私は、今までのMさんの働きぶりを見て、安易にMさんが悪いと判断してはいけないと思いましたが、フォローしようにもネタが出てきません。
状況の整理
ここまでの状況からみなさんならどう対応されるでしょうか。
社長がそんなことにまで関わらなくても、あるいは、こうすればそんなこと簡単に防げるだろう、と解決策をお持ちの方もおられるでしょう。程度が低いとも言えるような問題ですが、実は多くの企業で起こっている、職場環境を悪くするとてもよくある事案なのです。対応を間違えれば、誰かが退職しなければならなくなるというリスクも持つような、社員にとっては死活問題なのです。
その当時、この危機感を感じながらどう対応するか頭を悩ませました。
AさんもBさんも同じ苦情を言っている。AさんもBさんもウソをつくような人ではない。
状況は、3対1のようになってしまっています。多数決だと完全に負けです。
しかし、一つ重要なことがあると考えました。
少数派側からの意見、情報がひとつもないんです。3人からの情報だけで判断してもいいんでしょうか。
情報の整理
今回の案件、多数決で決めるようなことではありません。社長は警察でも裁判官でもありませんから、犯人探しになってはいけません。この時に重要なのは、証拠ではなく、「事実を示すデータ」です。社長も感情がありますから、だれの話をプラス目に聞いて、だれの話をマイナス目に聞いてしまうという、偏りは出てしまいます。さらに現場で当事者になっている人たちはそれ以上に、自分の目線からだけの意見や感情が出てしまいます。さらに言えば、自分の都合のいいように報告したり、解釈したりするでしょう。
そのようなノイズをいかに除去するか、ということがとても大事になってきます。
この件があったころ、社内では作業日報の記録を、スマホから行うようにしていました。このことからだれが何時から何時までどんな作業をしていたのか把握することができます。
そのデータに感情は入りません、都合よく記録するということもできません。自分が実施したことの事実があるのみです。紙でも、もちろん同じことが記録されるとは思いますが、社長の立場から記録の使いやすさは明らかに差があり、分析の幅が圧倒的に違います。
本来あるべき姿
そもそも、このような案件は、スケジュール作成時点で、人員配置は?優先順は?優先順が高いときは何をする?低いものは放置でいいのか?そのような「判断基準」が決まっていなければ、イレギュラーがあるたびにその当事者が「感覚で」判断するしかありません。そして判断がつかない社員は、このようなレベルのことまで社長に報告するしかない状態になってしまうのです。
そして、今回の案件の答え合わせは、設備にトラブルが起きるたびに、AさんとBさんはすぐにKさんを呼んでいました。Kさんは呼ばれるたびに本来のスケジュール作業を中断し、そちらに向かっていく。
一見悪くはないこの行動ですが、対応できる人が潤沢にいて、イレギュラーが起こるたびにそれに向かってもフォローする人材がいるという状況であれば問題ないでしょう。しかし、人員が限られている小規模な工場であればあれもこれもすべてに対応する余力などありません。
このときこの3人は、スケジュールを把握することもせず、目の前の設備だけを見て、自分の手が空いてしまわないかどうか、それだけを見てそれに対処する、という状況が起こっていたのです。本来管理者がコントロールしている状態であれば、私のところに来ることなく、管理者のところに相談したかもしれません。そういう意味でも仕組みが整っていなかったと言っていいでしょう。
その結果、Kさんが目先のイレギュラーばかりに対応したことにより、本来勤務時間中にやらなければならなかったことをは後回しになり、そのしわ寄せは、すべてMさんがフォローしていたということがわかったのです。
Mさんからすれば、Kさんが予定通りに設備を動かしてくれないので、すべての仕事がMさんに降りかかってくる、という状況。「Mさんがすぐに対応してくれない」のではなく、Kさんが予定を守らなかった分まで、Mさんが一人で抱えていただけだったのです。
そういうことも言わなかったMさん、人のせいにしない、Mさんらしい行動だと思いました。
声の大きい人間ほど、自分に都合のいい解釈で報告してきます。悪気があるかどうかは関係ありません。自分の作業が止まらないことにしか興味がない人にとって、優先順位を守って淡々と作業しているMさんのような人間は、「使えない人」に見えてしまうのです。そして、そういう人間ほど、わざわざ社長に報告に来る暇があります。本当に忙しい人間は、愚痴を言いに来る時間などありません。
この状況を、社長の人間性や、中間管理職の対応力だけに頼って解決しようとするため、誰の話を好意的に聞くかという偏りがそのまま問題解決の判断材料となってしまうことが多いのです。そのノイズを消すには、感情のないデータしかありません。弊社では、それをデータ化できていたため大きな問題にせず済んだのです。
これがなければ、声の大きい人の言い分が、そのまま現場の評価、さらに人事評価にも影響しているでしょう。
このようなところまで書けば簡単に「仕組みができていない」ということは誰にもわかることでしょう。しかし、実際には仕組みができていないことが多いために、社長が現場にいなければいけない、中間管理職がなかなか育たないという、原因を作っているのです。
わかっていてもその仕組みをどう作ればいいのか、作った仕組みをどのように運用すればいいのか、考えて数日で完成するという簡単なものではありません。
長期的に計画的に進めないと、出来上がった仕組みはすべて部分的な改善程度で終わり、いつまでもそれを繰り返します。
少しでも早く仕組み化に取り組みましょう。早く取り組んだ分結果も早く出ます。
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