社長がいなくても回る工場は、
生命力のある現場が仕事する
社長がいないと止まる工場は、
来た仕事をこなすだけ
株価高騰と経営の実態とのギャップ
最近、日経平均株価が60000円を超えたとか、割と普通に言われるようになっていますが、私が社長になった頃、リーマンショック直後は、なんと、10000円を割っていたこともあったんですよね。
確かに、牛丼は300円以下で食べられる時期もありました。ガソリンに至っては、1Lが100円を割っていることもあり、衣食住に関するものどれをとっても、今思えばとても安く手に入っていたんだと実感します。今より最低賃金は低かったものの、給与がそれほど高くなくてもそれなりに生活できていたというのは株価の低さと物価の低さが連動していたからでしょうか。
一方で、働き方はと言えば、「昭和な働き方=ブラック企業」のようなイメージになってしまいましたが、「仕事は時間になったら終わり」ではなく「仕事が終わるまでが仕事」、有給休暇は取りにくいもの、残業する人が仕事できる人、という謎の基準もありました。
今では当たり前にある社員を守るための社会保険などの制度も、その当時は思いもしない内容が今ではどんどん拡充され、保険財政は厳しい、今後さらに厳しくなる、という状況の中でありながらも、あの当時より圧倒的にサービスは向上しています。
どちらがいいかという議論は、それぞれの立場や境遇によって変わりますので、一概になんとも言えませんが、失われた30年と言われているこの間に、数字には現れない、とっても重要なことを失っているような気がしています。
製造業を志した若者の動機
失われた30年と言われていますが、その30年前に我々世代はどのようなことを考えて就職先を探していただろうかと考えたキッカケがあります。
5月になると退職者が急増するというニュースです。
そして、退職しやすくする代行サービスまで出てきてしまいました。
会社の問題もあれば個人の問題もあり、相思相愛の関係にはなれなかったという結果だと思いますが、元はと言えば、就職活動の期間には、会社側は会社の理念や実現したいことなどを訴え、求職者側は自分のしたいこと、自分のスキルを活かせるところ、などを見極め、最終的に採用、入社という、スタートのためのゴールに辿り着くわけです。
それなのにたった1か月程度でそのような状況に。
これはどちらがいいか悪いかではなく、もっと大きな環境的な影響があるのではないでしょうか。
その一つに、私は以下のようなことを考えています。
あの頃のニッポン
製造業といえば、日本には、世界的な自動車メーカー、家電メーカーがあり、日本企業がアメリカの象徴とも言えるビルを買ってしまうほどでした。
誰もが働き始めたら車を買い、最初は小さな軽自動車に乗りながら、次はコンパクトなスポーツカーに乗りたい、次はちょっと高級なセダンに乗りたい、など常に憧れの車があったものです。
シルビアや180SXに乗りながら、いつかはフェアレディZやスカイラインGT-Rに乗りたいと思っていたり、シビックやインテグラに乗りながら、絶対に手が届くことはないだろうと思いながらもNSXに憧れていたものでした。
どこを走ってもカローラばかりというくらい、とても売れていた車種だと思いますが、カローラに乗りたいから乗っていたというより、いつかはクラウン、その途中経過だったのではないでしょうか。
製造業に携わる側、作る側はといえば、GT-Rの製造に携わりたい、ロータリーエンジンの開発に関わりたい、などのように製品への憧れが、業界への入口だった人も多かったのではないでしょうか。
実際にそれを目指して田舎を出て、大学に進んだ人、愛知県に就職した人、神奈川県に就職した人、そういう人も見てきました。
しかし今、その入口が消えつつあるように感じています。
就職先が減ったという意味ではありません。
希望に満ちあふれた場がなくなった、
そのような場を提供できなくなっている、
ということです。
目先の利益を取るための経営
シルビアも180SXも、フェアレディZもGT-Rも、シビックもインテグラも、RX-7もロードスターも、全ては国の規制による犠牲です。
確かに人の命よりも経済を優先するということはあってはいけません。しかし、その規制のあり方が、「欧州のスタンダードがそうだから右にならえ」のような単純な設定だとしたらどうでしょうか。完全に私個人の主観ですが、そのようにしか思えません。
そして、その負担は全て企業側に押し付けられています。
その規制により、低重心、コンパクトで、薄べったいボンネットの車を作るには、その規制をクリアできる「技術力」ではなく「資金」がなければできなくなってしまったのです。
今まで限りある資金の中で、長い年月をかけ、多くの人材の知恵を結集させ、磨き続けられてきた「最高の作品」がこの世からなくなってしまいました。
それと同時に、日本人がいちばん得意とする「技術者の創意工夫」「職人の技術の結晶」を生み出す場までも失ってしまいました。
失われた30年に失ったもの
昭和を生きてきた人が、過去の栄光にしがみついているとの解釈もあるかもしれません。
しかし、人が「なんのために働いているのか」社長が「なんのためにこの会社を経営しているのか」ということを考えた時、その当時にはあった目には見えないものが原動力になっていたのではないでしょうか。
国の規制のことについて、現場の一個人、現場の一社長がどうにもすることはできません。
しかし、四半期ごとの決算も大事ですが、数年、数十年単位という「長期的な視点で何かを追い求める仕事」というのがとても大事なのではないでしょうか。
多くの中小企業は上場していません。もしかしたら、あの当時の生命力のある仕事ができるのは、中小企業がやるべきことなのかもしれません。
マツダがロータリーエンジンを復活させ、「マツダらしい車」を作り続けようとしているのを見るとき、単に株主として期待するだけでなく、製造業に関わる一人として、心から応援したくなります。787Bが復活し、ル・マンや鈴鹿サーキットを走ることを想像するだけでワクワクします。
現実に戻ると、社長が現場に口を出していないと回らない状態では、社長自身が夢を語れません。そして夢のある仕事に携わりたいと考えても、それに着いて行くことができる「生命力のある現場」を作らなければ、仕事が来ることはありません。
夢ばかり見ていても仕事になりませんからね。
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