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71 社員が社長の話を聞いていないと思う時に考えるべきこと

社長がいなくても回る工場は、
「誰が言うか」を設計している
社長がいないと止まる工場は、
「何を言うか」だけを考えている


創業50年になる工場のK社長の話です。ベテラン社長だけあって、言葉に重みもありますし説得力もあります。コンサルティングを行うため訪問している私の方が勉強になります。

そんな社長にどんな困りごとがあるのかと思いましたが、内容は、どこの社長も困っているであろう至って普通の内容です。

「うちの社員がなかなか育たない。何回も同じことを言わなければ実行しない。『作業が終わったら工具を元の場所に戻すとか、掃除と片付けはちゃんとするように』『停止時間が長くなれば利益も下がるから、トラブルがあったらすぐに報告して』『不良が見つかったらすぐに報告して。対象範囲が広がると大変だから』などなど、工場で働いていればごく当たり前のこと、掃除と片付けなんて小学生だって先生に言われなくてもやるだろう? それをなかなかやってくれないから何度も同じことを言わなければいけないんだ。どうすればいいだろうか」

全社員を集めてしゃべったことも、会議で言ったことも、その直後数日は守られていても、時間が経つとやっぱり元に戻ってしまう。この社員が社長の話したことをちゃんとしてくれるようになるには?ということでした。

私は確認しました。「社長、ひとつ確認させてください。社員が社長の指示に従うとき『社長が言った通り』に動いてくれるのがいいですか?『社長が言ったこと』ができていればいいですか?」

・・・社長がこんなに困っているところを、私ははじめて見たのです。


約1か月後、再び訪問したとき、社長は興奮して爆発しそうな自分を冷静になるよう抑え込むのに必死な様子。どうやら、取引先からのクレームの連絡があったようです。内容を聞くと、

「今までずっと、そういうことが起こるかもしれないから気をつけろって何度も言って来たのに、言ったことをやらないからだ!」

とのこと。ホントにこれは、製造現場あるあるです。気をつけてねって言った時に限って、そういう類のクレーム情報が入る。あーあの時もっと厳しく言っておけば、強制的にでもやらせておけばよかった、と思うようなことが発生するのです。

このようなことが起きるということは、社員がこれを実行すればそういうことは起こらない、というミスが起こらない仕組み、もしミスをしてしまったとしてもどこかで気付くことができるような仕組み、このような仕組みができていないことが原因であることがほとんどです。

そして社長がそのことに気付いておらず、社員の作業スキルレベルが低いから、社員がなかなか育たないから、管理者が作業者に丸投げしているから・・・などのように、すべてを「社員の能力」「社員が育たない」ことを原因にします。そして、そんな状況だから社長がずっと見張っている必要があり、社員が気付く前に社長が口を出し事前のミス発生を防がなければならない、という社長の仕事ができてしまい、その結果社長は現場から離れることができない。こんなロジックが成立してしまっています。

言わば、社長が口を出すことでクレーム発生を防ぐ、という仕組みを、社長自らが構築してしまっているのです。


クレームが発生したことで、現場の社員は、ようやく社長が今まで口を酸っぱくして言っていたことを実行し始めました。
「社員による社長に対する嫌がらせか?」と思うほど、この時ばかりは社員はクレームに対し対策を取り、その後実行し始めます。

この時私は、社長にこう伝えました。

「社員は取引先の話は聞くんです」

社長に対する私からの嫌がらせのように聞こえてしまうかもしれませんが、これが事実です。

社員と社長との間に大きな違いがあります。それは雇用する側される側という関係ではなく、持っている情報が圧倒的に社長の方が多いということです。

社長は取引先とのやり取りを行っています。日々の受注の件、生産進捗の件、品質に関する話など、社員も担当者レベルでは話はしています。しかしそれはルーチンワークの中だけの話であり、自社工場と取引先の関係性、どんなことをすれば取引先のためになるのか、取引先から見て自社はなにをするべきなのかなど、そのようなスケールで話をする社員はほぼいません。社長はそのような視点で話をするからこそ、担当者レベルで行われる会話では思いつかない危機感や期待感を持ちます。社員は目先のルーチンワークを処理することがいちばん重要です。したがって社長が思うような情報は入ってこないのです。

そして、「クレーム発生!」という情報となって、はじめて取引先から社員へ直接情報が届く。そうなったときにようやく、今まで言われていることがこういう意味だったのかと気付くことがあります。

問題は「何を言うか」ではなく、「誰が言うか」ということです。


社長の言葉が届かない理由を、社員の資質や態度のせいにしたくなる気持ちはわかります。
何年も社会人として生きてきた大人が、普通に考えればわかることを理解しない。口では「はい」と言うのに何も変わらない。まるで小学生に言い聞かせているようだと思うことでしょう。

この度のクレームも、普通に考えれば気付くことだろうと言いたくなる内容だったことは間違いありません。しかし、取引先から言われなければ気が付かないというこの状態は、社員がルーチンワークの中でそのようなところまで思考を広げることができない、という状態を作っているために起こる結果です。

社員の仕事が、ただのルーチンワーク化すると、クレーム発生だけでは済まないでしょう。

クレーム発生して対策を取る。その対策をマニュアル化する。

これはとても重要な作業ですが、マニュアル化された後、ただただこのマニュアル通りに作業していればクレーム発生は絶対にないのか?そんなことはありません。同じクレームは防ぐことはできるかもしれませんが、別の形で発生するかもしれません。そして、またそれを社長が今まで通り口を出せば、社員は言われたのにしない、言われたことが理解できていないということが起こり、また後戻りです。後戻りだけならともかく、ISO9001認証など、その認証の継続にも影響が出てきてしまうかもしれません。品質マニュアルに改善をすると書いてあるのにやってない・・・そんなことにもなりかねないのです。社長はそれを恐れてまた口を出す。社員は淡々とルーチンワークをこなしている。

社長が口を出す以外に、「誰が言うか」という社員に指示を浸透させる設計も考えなければいけません。外部のISOの審査官の口も借りるくらい、現在回っている仕組みを再設計する必要があるでしょう。