社長がいなくても回る工場は
上流工程がしっかり機能している
社長がいないと止まる工場は
いないと困る優秀な社員に頼る
再び、紙加工会社での話です。
社長は「生産現場の改善が進めば、自分が現場に出なくてもよくなる」と常々おっしゃっています。
その現場改善の一つに、旧式の設備を最新ではないけど、生産能力が倍くらいになる設備導入を検討しておられました。しかし、それを導入するために必要な資金の一部を、銀行から融資をしてもらおうと考えていて、そのための説明資料を作成をしておられました。
実際に本番で説明をする前に、私は社長の熱の入った説明を聞いたのです。社長は自信をもって説明されました。
「時間当たりの生産数が○○個増え、社員がその作業に入る時間が○○分減り、トータルで○○分の時間削減ができるので、○○円分のキャッシュが生まれる・・・」
その説明を聞いた後、私はこのように聞いてみました。
「○○円分のキャッシュは、ホントに口座に残ってるんですか?」と。
社長は、「何を言っているんだ、さっき説明した通り。計算間違ってないだろ」と思ったそうですが、確かに通帳を見たり、月次決算をしたときに、これがあの改善で行った工数削減分だ、と言えるものは見たことがないことに、今更ながら気づいたのです。
製造現場でよく行われているカイゼン
例えば、設備ごとにトラブル発生回数や発生内容のデータを集計し、どの設備でトラブル発生が多いか、その種類はどんなものが多いか、という情報を、ABC分析で確認します。他にもまだまだ改善手法は存在しますが、代表的なもので説明します。
- ABC分析で、上位3割を解決すれば、全体の7割の問題が解決するといわれています。
- したがって、10ある問題のうちの3つを解決することに取り組みます。
- それぞれ、この問題があるために○○分設備が停止している、あの問題があるために○○個不良が出ていてその分を作り直さなければいけない、という具体的な状況を把握します。
- 問題解決したときに、どのくらい改善している状態を目指すのか、目標値を設定します。
- 設備停止要因を分析します。不良発生要因を分析します。
- 分析した要因に対し、どんな対策を取ればいいのか検討します。
- 書き出された取るべき対策を元に、スケジュールを立てて実行します。
- 時期が来たら対策の成果を確認して、問題が解決したといえるかどうか、設定した目標値に到達しているか確認します。
- 再度ABC分析を行い、次の課題解決に進みます。
と、このようなことを繰り返し行い、この積み重ね、蓄積により、キャッシュフロー改善の効果が表れるというものです。
全く間違っていません、机上では。
そして、冒頭の社長との会話のように、「これがあの改善で行った工数削減分だ」と通帳で分かることはありません。試算表でもわかりません。
実際に良く起こっている問題として、社員からすれば、工数削減ができればその分給与が上がるのではないかと思って頑張り、実際に工数削減効果を示すことができたのに、昇給もない、賞与も増えない。そして社長から言われるのは、コツコツと利益が出るようになるまで我慢強くやり続けなければいけない、ということ。
自分の実入りが増えるわけでもないのに、社員が気長にコツコツとがんばってくれるはずがありません。
でも仕事なので、やった風にはするでしょう。
このように成果が出ないことをやり続けることは、社員には負担でしかありません。
また、やっても成果が出ないことは、ホントは社長もわかっています。
しかし、今まで正しいことと思い指示をしているだけに、今更ひっくり返すことができません。
さらに、現場改善をするということが業界的に当たり前になっています。取引先に辞めたなんて言えません。
そして、もっと悪いことに、他の方法を持ち合わせていません。
したがって、方針転換がなかなかできないのです。
改善に意味がなかったというものではありません。そして、求めている効果が得られないなら、やらずにそのまま放置していればいい、というものでもありません。
現場改善はやるべきであることは間違いないのですが、キャッシュフロー改善につながるかどうかは別のところにある、ということです。
モノづくりは設計で決まる
当たり前の話ですが、モノづくりの上流工程は、設計・開発です。
生産現場では、ここで作られた図面通りにしかモノを作れません。
そこに様々な要素技術が必要で、その技術を持っているかどうか、その技術をうまく扱うことができるかどうか、その技術力を上げられるかどうか、が製造現場の差別化される点でしょう。
設計や開発の前のさらに上流では、モノづくりの企画がされます。どんなものを作ったら売れるのか、世の中の人がどんなものを欲しがっているのか、など製造現場ではあまりかんがえないようなことが検討されています。
これを考えることはとても必要なことではありますが、特に、中小製造業では、この部分がありません。また、製造現場がメインの工場で企画を検討し、その企画が採用されることがあれば、これは自社製品を持つメーカーと言えるでしょう。なかなか多く存在するところではありません。
そして言いたいことは、この部門や機能を持つかどうかではなく、
「社長がどのような工場を作り、儲けようとしているか」
ということがとても重要だということです。
会社、工場は社長によってその構造、ビジネスモデルが設計されて作られています。
普段意識することはないかもしれませんし、創業時、自分はこういうものを作ることができるから、という理由で工場経営をはじめたら、今ではそういう仕事をたくさんやっている、という状況があると思いますが、これは意図せず工場経営の設計を行い、日々工場に必要な部門や機能の開発を行い、今日に至っているのです。ただ単純に社員が作っているから経営ができているというものではありません。
さらに、この工場ではどのようなことを事業としてやっていくのか、これを考えるのは工場を作る際の企画にあたります。どのような企画を立てて工場経営を始めたのでしょうか。
これらを考えることが社長の重要な仕事であり、利益につながるかどうかに深くかかわっているのです。
あまりいい言葉ではありませんが、社員が製造現場内だけで考え、実行することができる改善内容は工場経営全体で考えるとかなり限定的です。その改善で、給与が増額できるほどの利益を出すことは現実的には非常に難しいものです。
改善内容が物足りない、社員の取り組みが浅い、社員が育たないなど、そういう問題ではなく、役割分担上仕方がないのです。
また、現場改善は利益を増やすための手段の一つでしかなく、手段はそれだけではない、取り組むべき改善の優先順は低いかもしれないのです。
生産現場の仕事や改善の考え方は、工場経営の設計の中の一部分でしかありません。現場改善をこれまでのように、「製造業の常識」として粛々とやっていてはいけません。
どのような設計図を描いて工場を作り上げていくのか、それは利益を生み出すことのできる工場なのか、ここにすべてがかかっているのです。
カイゼン、○○方式など、大手メーカーの取り組みがすべて正しいのではありません。 中小製造業の規模、自社の限られたリソースにあった取り組みをしなければならないのです。
あなたの会社では、工場経営の設計ができていますか?



