社長がいなくても回る工場は
時代とともに、社長も変わり続ける
社長がいないと止まる工場は
社長だけが変わり、現場は変わらない
「IT人材がいない工場」で起きたIoTブーム
多くの工場で、「IT人材がいない」という困りごとは、いまだに解消されません。
IoTが流行り始めた頃、「たった数十円のセンサーで設備からデータが取れる」という、当時かなりインパクトのある触れ込みで多くの工場がこれに挑戦したものです。多くのIoT関連の書籍も出ましたし、そのようなセミナーもピンからキリまでたくさん開催されたのを記憶しています。
私の部屋にもそのような本が何冊か残っていますが、その本にも先ほどのワードのような「かんたん」「だれでもできる」というような言葉が書かれています。
そのような謳い文句に私も惹かれ買ってしまったのですが、現実はそう簡単ではありません。というより、冷静に考えてみれば、そんなに簡単なはずはありません。
実際に、やってみた方はどう感じられたでしょうか。
現場に任せたIoTは、なぜ続かなかったのか
たった数千円で購入できる「ラズベリー・パイ」という手のひらに乗るくらいの小さなPCも、IoTの流行と同時に誰にでも目に触れるようになったように思います。おいしそうなお菓子のような名前とは裏腹に、普段使うWindowsやMacなどとは違い、本やWebとにらめっこしながら進めなければ立ち上げさえできないというものでした。
そして、そのPCから出ている端子に自作の電子回路を接続し、Pythonでプログラミングし、回路内のセンサーが反応したらそのデータがラズベリー・パイに保存されるというものでした。
保存するにもデータベースの知識が多少なり必要ですし、保存するだけではデータは使えません。
データを分析できるような形に整形する必要がありますので、BIツールのようなものが必要です。
データベースの中身は、そのままExcelで処理できるわけではありませんので、普段PCの作業もしない生産現場の作業者が、この一連の流れを理解し、使いこなしていることはあまりないのではないでしょうか。できたとしても決して簡単ではなかったはずです。
そして、当時は、多くのIT企業がIoTツールを開発し、工場に売り込みました。
IoTという技術と工場の可視化、現場改善に親和性があるという話は、理論的に筋の通った説明でした。
しかし現実には、多くの工場が途中で挫折しました。
導入できたとしてもほんの一部分。工場全体の何かが大きく変わったとか、会社の業績が良くなったという話も聞きませんし、今ではIoTという言葉自体を聞く機会がなくなってきました。
実際、私が経営する工場にも導入しましたが、最終的には、私が経営者の立場で現場を把握する目的で活用しましたが、現場では次第に使われなくなっていき、浸透することはありませんでした。
このような状況を世間の専門家は、「経営者が経営方針の中で、IoT導入、利用の優先順を上げないからだ」とか、「経営者が、現場の作業者に時間を与えないからだ」などのように、経営者の責任を指摘する言葉も多く聞いてきました。
しかし、私から見れば筋違いです。
IoT導入しても経営数値になんの改善も見られなければ、価値を生まない必要のないツールと判断し、そこから撤退の判断をするのは当たり前です。
IoTの件に関していえば、「簡単だ」という誇大広告のようなメッセージに反して、実際に使いこなすには、高レベルで一定程度の知識や技術を必要とするツールでした。
机上の空論とも言える理論的な解だけが広まってしまい、現場との乖離が生まれてしまったのだと私は振り返り、反省もしています。
現場作業を主業務とする作業者に対し、彼が持ち合わせる知識と技術レベルとかなりかけ離れた難易度の高いものを習得させようとし、現場への実装までさせようとしていたのです。今になってみれば、それ自体無理のある話でした。
同じ失敗を繰り返せない
そして数年前から、今度は生成AIが一気に広まりました。
今回は、IoTの時とは様子が全く違います。
一つ目には、一般の人には、AIツールをどうやって作るのか全くわからないということです。自作IoTなどという言葉もありましたが、自作生成AIは工場の作業者が作成することは、不可能といってもいいでしょう。
そうです。購入して利用するしかないのです。
そしてもう一つには、ITの知識がない人でも誰でも使っているということです。ITの知識どころか、文章作成のスキルがなくても立派な文章が作れます。絵心がなくても写真と見間違えるほどの立派な絵が描けます。動画も作れます。
ということは、経営者、管理者、現場の作業者、ITに詳しいのかそうでないのか、どんな立場なのか関係なく利用できなければまずいツールであるということです。
生成AIによるフェイクニュースや著作権侵害などの問題もあり、いいことばかりではありませんが、だからといって使ってはいけないと制限すれば、生成AIの使い方もわからない、リテラシーさえ持ち合わせない人となってしまい、使える人によって更なる被害を受けることは間違いありません。
生成AIは誰でも使えるようになるべきだ、というのは理想論かもしれません。 しかし、今後、会社経営でも生産現場でも生成AIが使われていくことは間違いないことであり、経営者が「生成AIの導入を強化する」と経営方針を示すこと自体は、間違いではありません。むしろ、今後必須の取り組みです。 社長の指示した方針に対し、「自分は生産が仕事だから生成AIなんか必要ない」「社長が分からないことを言い始めた」という理由で反対する現場であっては、世の中の工場の発展からどんどん遅れていくことは間違いありません。
新しいことを始めれば、現場からの反発があるのはよくある話です。 生成AIを使いこなせるようになってほしいとは言いません。
ただし、経営判断として進める生成AI導入の邪魔をしないでほしい。 それだけ、避けて通れない時代になっているということです。



