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80.がんばるほど儲からない会社の仕組み

社長がいなくても回る工場は
改善を自社の資産に変える
社長がいないと止まる工場は
改善を無料サービスにしてしまう

製造業では、ずいぶん前から少ない種類の製品を大量に生産するという環境から、ロット数は小さいのに多くの品種に対応できなければいけない、という環境に移り変わってきました。

そして、少量を生産するだけで事業が成立するのは、大企業ではなく、売上が小さくてもやっていける中小製造業です。したがって、そのような手のかかる製品ほど小さな工場に回ってきて、小さな工場ほど「生産性が悪い」と言われている、なんとも大きなお世話だと言いたくなるような、現場を知らない評論家の、上から目線分析が理屈だけ成立してしまっている状況が、我々の経営環境ではないでしょうか。

多品種少量生産では、管理者は、
生産スケジュールを立てるにも様々な組み合わせを検討しなければいけません。
それに合わせ、切らさないように、かつ無駄のないように材料を仕入れ、
完成品は一気に運べる物流を考えながらも、個々の納期に対応しなければいけません。
作業者は、様々な製品、生産ラインに対応できるよう、スキルアップは必須です。

このように手間のかかる仕事をしなければならない状況だと分かってはいますが、多くの工場は、大企業からの仕事を受けていますから、「多品種少量生産に対応できます!」と、仕事を取るための最低限のアピールポイントとなっているのが通常です。

 

最近は、生産品目が増え、限られた生産設備で多くの種類の製品を作らなければいけないため、段取り替えが頻繁にある。
顧客からの要求も年々上がっていて、数年前に本格的にIT化をしたが、システムのリース代、システムの保守にかかる費用、システム運用による理想の生産体制と現場の能力の埋まらない差・・・。
IT化による作業の効率化によって、生産性が向上し利益が出ると考えていたが、利益につながっている気がしない。

こんなことをおっしゃられました。

この社長だけではありません。多くのIT化を進めてきた工場でよく起こっていることです。

私は必ず、「売上は上がっていますか?余力はありますか?」
という確認をします。

多くの場合、このような工場で起こっているのは、
「生産性向上」=「利益が出る」
というように、生産性と利益が直結しています。
果たしてそうでしょうか?

 

当たり前ですが、利益は、売上から経費を差し引いたものです。
ですから、生産性向上のためにお金をかければ、それ以上に売上がなければ当然利益は残りません。

製造業がITベンダーに利益を吸い取られていく謎の構造に、どっぷりハマってしまっているのです。

人件費が削減できる、と考えてIT化を進めることも多いでしょう。確かに間違いではありませんが、IT化した分、同じくらいその作業がなくなり、その作業に関わっていた作業者が本当にいなくならなければ人件費は減りません。

多くの会社で、作業が減ったからといって社員を減らすということはできません。アメリカのように、AIで作業効率化できるから、前もって10000人リストラするなど、日本の中小企業でできるはずがありません。

ですので、生産性向上目的にIT化した場合、しばらくするとITがなければ回らなくなっていて、なくてはならないものになってはいるけど、生産性向上や利益を生み出すことにまで至っておらず、本当にIT化に成功したのか?という疑問を持たざるを得ない状況があります。

 

そして、利益につながらない1番の理由は、
「IT化は、ただの改善」
ということです。

顧客は、自社にとって、自分にとって「価値があるもの」にしかお金を払いません。
したがって、我々が居酒屋に行けば、お酒や食事にしかお金を払わないでしょうし、家電量販店に行けば家電製品にしかお金を払わないでしょう。
居酒屋で、とても気分が良くなる接客をしてくれる店員さんもおられます。その接客のおかげで、もう一品二品追加で頼んでみたり、後日また来店したりすることはあっても、その店員さんの対応自体にお金を払うことはありません。

エアコンを求めて家電量販店に行ったとき、Panasonic、HITACHI、MITSUBISHI・・・様々なメーカーのエアコンが並んでいても、どのお店で買おうと品番が同じであれば同じエアコンです。そうであれば、安い方が良いとなるのは当然です。そこで、保証期間を長くしてみたり、付属品を追加で紹介したり、値切り交渉に付き合って満足させたりして、なんとかエアコン単体以上の売り上げを得ようとするわけです。不要な人には迷惑な接客ですが、必要とする人にはとても親切に提案してくださった良い接客だったということになります。
それでも、店員さんのその行為自体にお金を払うことはありません。

このように、その業種ごとに買ってもらえるものは決まっているわけで、その単価を上げるか、リピートあるいは追加の売り上げを取りに行っているのです。

それと同時に、店員さんがどんな努力をしようと、お店にどんな仕組みがあろうとどんな教育をしていようと、それをしているからその活動の工数にお金を払うことはありません。

 

製造業で見れば、生産ラインで行われる工数削減は、同じ売り上げを如何に費用をかけずに確保するかという活動です。しかしこれでは本当に工数削減した分のキャッシュアウトが無くならなければ利益になりません。
1時間早く作れるようになったとしても、就業時間内の活動であれば出ていくキャッシュは変わりませんので、利益にはつながりません。

IT化も全く同じです。直訳すれば、インフォメーション・テクノロジーです。
情報をどのように活用するかというツールでしかありません。IT化により作業工数が削減できているのは、情報処理を人が行わずにPC内だけで完結できるようになっただけであり、生産ラインの工数削減と全く変わりません。

したがって、この削減工数分のキャッシュアウトが無くならなければ、いくら生産性向上を行なっても、利益にはつながらないのです。
ITベンダーに持って行かれていませんか?

そして、製造業では、生産することと並んで改善をすることは当たり前の業務であり、当たり前の企業努力となっています。それは自社だけではありません。仕入れ先の業者も顧客企業も同じように考えています。
ですから、発注先の工場が、IT化などどんな生産性向上の努力をしていようと、顧客はそれ自体にお金を払うことはないのです。

昨今、材料費の値上げ、人件費の高騰など様々な面で価格転嫁できないことが問題になっていますが、改善をするのが当たり前という文化では、どこも同じ問題を抱えています。
最近、下請け企業に金型を保管させていた、という発注企業が、公正取引委員会から改善命令を受けたというニュースを見ましたが、発注企業側からすれば、その金型で生産するのだからそれを使う下請け企業が持っていて当たり前、という理屈だったのではないでしょうか。
この思考回路は、この企業の文化であり、風習、慣習ですから、勧告を受けてすぐに変化するものとは考えられません。何世代に渡って変化していく中でようやく変わっていくものではないでしょうか。すぐに解決する問題ではありません。

 

冒頭の社長の工場でも、IT化にかかった費用を単価に上乗せすることができませんし、IT化の費用を発注元が建て替えてくれるはずがありません。

それどころか、IT化したことでどんな発注があっても対応できます!、と売り込まざるを得えず、面倒な仕事を受けざるを得ません。
IT化だけではありません。設備の増設、物流業務の拡大、様々に増える管理コストなどなど多くのものが、直接売上になるものではありません。

そして、実績を認めてもらい要求されれば無理をしてしまう真面目な工場ほど、頑張ってIT化し、これも必要なコストだと真面目に運用をします。
しかしこのことが、「発注元にとって都合のいい工場」として安く使われてしまう原因にもなってしまうのです。

店員さんの丁寧な接客がお金にならなくても、追加購入を産む、リピーターになる、次の来店につながる。
製造業の改善もIT化も、これと同じように直接的には売上にはなりません。しかし、実績を積んで追加の仕事が取れるか、次の受注の単価アップに繋げることができるか。
改善やIT化が、次の売り上げを作る設計になっているかどうかがとても重要です。

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