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コラム
2025.10.21

48.省エネ意識が生む間違った経費削減


「工場=コストセンター」という古い考え方

しばらく前の話ですが、「工場はコストセンター」という考え方を聞いたことがありますか?

これは管理会計の考え方で、営業部門が売り上げを作る部門「プロフィットセンター」といい、一方で製品を作るためにコストがかかる、コストをかける部門として工場・製造部門を「コストセンター」と呼んだようです。
つまり、工場は、お金を使う場所であって稼ぐ場所ではない、という見方です。

この考え方に、今では違和感を感じる方も多いのではないかと思いますが、以前は、この考え方を前提にして、〇〇生産方式では「徹底的な無駄の排除」が謳われてきました。

工場はコストセンターだからこそ、コストを最小化することが重要
ムダ・ムラ・ムリを排除し、効率を最大化する
ジャスト・イン・タイム、かんばん方式なども、在庫コストを減らすための仕組み

といった具合です。


経費削減のため、電気代を少しでも減らすために、昼休憩時間になると使わない電気を消して回る、終業時間になったら電気を強制的に消す、といったような対策も目にしてきた、あるいは実践してきた方も多いのではないでしょうか。
加えて、電気を消して回ることに関して言えば、「省エネ」という世の中に浸透した言葉があります。そのため、電気を消す、パソコンの電源を落とす、使わない電気製品のコンセントは抜く、などの作業が自然とだれにも浸透していました。

自社工場を見ても、終業時間前に電気を消して回っている人がいます。

しかし、その部屋ではまだ誰かが作業していたり、作業が終わっていたとしても片付けや掃除をしていたり、終業のための作業をしています。その時は気を使って、その人がいる周辺だけ電気が点いていたりしていました。

一見、経費節減、省エネに熱心な工場、真面目な社員にも見えます。

しかし本当にそうでしょうか・・・。

世の中を見ると・・・

ここ数年、最低賃金が上昇し続けていて、その上昇率も上昇し続けています。

2025年度も6.3%の上昇率です。

工場の経費の大きな割合を占める電気代も上昇傾向にありますが、蛍光灯の電気代で考えればどうでしょう。昔の蛍光管からLED蛍光灯が一般的になり、消費電力は約5割も削減されているそうです。
このような状況では、電気を消すという「コスト」が、どんどん上がっているということで、つまり、電気を今の倍つけっぱなしにしていても、やっと昔の電気代に追いつく程度なのです。

これは、ちゃんと計算した方が良さそうです。

30円を節約するためにかかる経費は・・・

試算してみました。
省エネ、経費節減に熱心な社員1人が3フロア分の電気を、10分かけて消すことができたとします。最低賃金の全国平均1121円で働いているパートさんが作業したとして、その作業にかかる人件費は、10分では約187円です。

次は、電気代を計算してみます。
工場1フロアに、LED蛍光灯、約20Wが100本、フロアが3つあるとすると、工場全体にLED蛍光灯が300本になりますので、電力消費量は6kWですね。10分間では1kWh。これに電気代の30円/kWhをかけると、10分間の電気代は30円。
たった30円の経費削減のために、人件費を187円もかけているということです。

さらに休憩のたびにパソコンの電源を切るとか、使わないコンセントは抜いて回るとか、そのような作業を増やせば増やすほど、経費削減のつもりが、削減した何倍もの人件費を浪費しているということになってしまうのです。

本当の経費削減とは¥

この試算は、社員の動作一つ一つにどれだけの価値があるかということを示すものであり、人には価値のある作業をしてもらわなければ、どんな経費削減もカッコだけになってしまうということを明確に表しています。

「省エネ」という観点では、やるべきことはたくさんあるでしょう。電気を消して回ること自体が悪いことではありません。

しかし、電気を消して回ることで、経費削減をしている気分になっているだけでは意味がありません。そして、ビジネスは省エネをしていれば利益が出るという簡単なものではありません。

省エネという言葉には反することであっても、経費を浪費するような省エネでは、収益をマイナスにするのはもちろん、ビジネス活動が行えなくなれば省エネの活動さえ行えなくなってしまいます。

本当に効果のある省エネは、「工場を稼働しないこと」となってしまいます。それではビジネスが成立しません。

工場がコストセンターという考え方、営業がプロフィットセンターという考え方は、コストをかけずに営業してこい、何も作らないけど商品を売ってこい、と言っているようなものです。

10分間の電気代(30円)を節約するより、10分早く片付けが終わる方法を考え、10分早く業務を終わらせることの方が遥かに経費節減に直結します。

翌日の準備、工具の片付け、現場の清掃、生産実績の確認などなど、業務終了前の時間帯にやるべきことはたくさんあります。

蛍光灯の電気代一つとっても、やり方次第でキャッシュフローに直結する経費節減ができます。それは、社長の考え方と発信次第でプラスにもマイナスにも変わります。

工場に、このような「経費削減の勘違い」がありませんか?
電気を消して回る、パソコンの電源を切って回る...一見節約に見えて、実は逆効果になっている作業です。
この考え方を正しく社員に伝えることで、社員に現場を任せられるようになり、工場の自動稼ぎ装置化につながっていきます。
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