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コラム
2025.09.16

44.社長が現場にいてはいけない理由

東京で遭遇した“予想外”の大雨と空港の混乱

先日、久しぶりに東京に行ったのですが、せっかくの東京行きが、思わぬ災難に遭ってしまった時の話です。テレビでしか見たことなかった光景を目の当たりにし、衝撃を受けました。

最近では、強い雨が降ったら、必ずと言ってもいいくらいどこかで川が氾濫したり、住宅が浸水したり、今までの経験則だけでは通用しない状況が起こっています。
この日も大雨になるということは天気予報では言っていました。
最近の天気予報はよく当たりますね。それにもかかわらず、今まで経験したことないような雨が自分のところに降るということは、なぜか考えないのですね。

大きな通りに面したカフェで、ランチをとりながら外を眺めていました。

朝の天気予報で言っていた強い雨が降る時間が近づき、遠くからいかにも怪しい黒い雲が近くなってきました。雷が鳴り始め、カメラのフラッシュのように何度も光ります。
それでもあの雲が通り過ぎれば何事もなく終わるだろうと、安易に考えていました。
また、東京ですから、どこにいてもすぐに地下鉄の入り口があります。地下にいれば雨に合わないと思い、なお相変わらず安易に考えています。

東京は大雨になっても少々の雪が降ってもすぐに電車が止まってしまいます。イメージだけでしょうか。とはいえ、夕方には飛行機に乗らなければいけません。電車が止まってしまうことで空港にも行けなくなることを回避するため、早めに地下鉄に乗り、空港に向かいました。

電車は順調に空港に到着しました。しかし様子がおかしい・・・。

ゴールデンウィークか年末年始かと思うくらい、人でごった返しています。
案の定、欠航便があるために乗れなかった人たちでいっぱいだったのです。
自分が乗る便は、今のところ「定刻」という表示になっています。早めに到着したので、ゆっくりコーヒーでも飲みながらPCに向かって待つことにしました。

搭乗時刻が近づき、目的の搭乗口まで行ったのですが、行き先が全く違います。さらに、その出発時刻もとうに過ぎています。
結局、私が乗る便も約1時間遅れ。それでも帰れるから御の字と思っていたら、欠航のアナウンスが。

話せばまだまだいろいろな出来事があったのですが、本題に移ります。

現場──それぞれの役割と視点

空港には常に天気を見ている役割の人がいます。荷物を運ぶ人もいれば、飛行機を誘導する人もいます。当たり前ですが、航空会社の方が、全員が飛行機に乗っているわけではありません。
工場で言えば、全員が生産だけをしているわけではないのと同じです。品質管理をする人や倉庫管理の仕事の人もいます。

では、社長は何をしているのでしょうか。

空港の仕事に関わる会社は、ちょっと普通の規模の会社ではありませんので、当然現場にはいないでしょうし、私の考えが及ぶところではありませんので、実際に何をしておられるのかわかりません。さすがに、ゴルフをしているということはないとは思いますが・・・。

状況は緊急事態です。現場は混乱しています。
空港会社が飛行機を飛ばせないのは、あなたの工場で言えば、製品を作ることができない、作った製品を納品することができないのと同じです。
生産を止めてはいけない、納品しなければ取引先に迷惑をかける、社員も今までに経験をしたことがない出来事にとても困っている。そこに、社長が自らリーダーシップを発揮して、混乱している現場に飛び込んで状況を打破する。
ということをするとどうなるでしょうか?

その時点の問題は解決するかもしれません。
しかし、それに対応している間にまた新たな問題が発生するかもしれません。そうなるかもしれない、ということはだれが察知するのでしょうか?

社長の役割は“未来を見ること”

空港では、常に天気を見ている人が、現時点だけでなく数時間先の天気も予測して飛行機を飛ばすかどうかを見ています。現時点だけの問題解決をしているわけではありません。
生産現場にいれば、当然目の前の生産が仕事になりますが、大雨により近くの川の堤防が決壊し周辺まで水が迫っている、ということを把握することもできません。
社長も現場の作業者と一緒になって、現時点の混乱収束のために現場に入っていれば、水が迫っていていることは、いったい誰が見るのでしょうか?

空港のように、天気専門で状況を見てくれる社員を抱えることは不可能でしょう。
ですから、社長は常に情報を集めなければいけないのです。
玄関まで水が迫ってきていることを社員は知りません。社長が伝えなければいけないのです。

経営状況も同じです。今までのままで満足している、あるいはこの設備の改善が必要ではないか、という社員の意見に合わせている場合ではありません。
会社の状況が悪ければ、いくら社員が居心地が良くても、社員がどんな意見を持ってきても、それを押しのけ、社員が行きたくない方角を示さなければいけないこともあるのです。

社長は現場にいては、現場の意見がたっぷりと反映された、現場目線での情報収集しかできません。社長は、経営者目線で情報を集めなければいけないのです。

私は、このくらいの雨なら飛べるだろうと思っていましたが、空港の職員さんは、30分先、1時間先の雨雲を見て欠航を決断されました。
私と同じ目線でしか状況を見ていなければ、飛行機は飛んでいたでしょう。その後どうなっていたかわかりません。

経営も同じです。社長は現場に入りすぎず、未来を見て判断する役割を果たさなければなりません。
現場に入りたくなる気持ちもわかります。しかし、それでは会社を守れません。
おかげで私は、命を守られたのかもしれません。

結局、血行が決まったのは、飛行機に乗り込んでから約3時間後の24時10分ごろのことでした。
終電もホテルもなく、はじめての経験をさせてもらいました。
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