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工場経営において、製造現場で「ムダ」を削る取り組みはされていますか?
このような質問をして、していないという社長はあまり聞いたことがありませんが、しかし、「改善しているつもりなのに効果が見えない、ずっと忙しいまま」・・・そういう社長は多くいます。
このまま無駄のある作業を見ていられない、このままさせていてはいくら生産しても利益が出ない、とばかりに社長が率先して現場に入り改善点を指摘し、社長自身が現場の改善をやってしまう、そのような状況にないでしょうか?
そして、「なんでこんな無駄な作業を、改善提案もせず続けているんだ!?」と憤りを感じながら、しかし怒って強く言ってしまえばパワハラになってしまうかもしれない、最悪辞められてしまうかもしれない、と逆にビクビクしていたりしていないでしょうか。
こうなると悪循環。社長がいつまでも社員に気を遣い、そして社長が思ったような製造現場にならない、だから現場から離れられないという状況が延々と続いてしまいます。
このような循環をどこかで断ち切らなければ、いつまでも社長がいなければ動かない現場、無駄がなくならない現場となってしまいます。
経営者が現場から離れられない理由の多くは、ムダの構造的な見落としにあります。今回は、製造現場の効率化に向けた本質的なアプローチを、私自身の工場経営の経験と、コンサルティング現場での実例を交えてお伝えします。
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製造現場のムダを無くし効率化するには?
最近では、「働き方改革」とか「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といった言葉が定着し始め、「改善」という言葉より「生産性向上」という言葉の方が目立っているように思います。
しかし、やるべきことの本質に変わりはありません。
特に製造業においては、「売り上げに直結する部分のムダを取り除くこと」は、収益に大きな影響を与える重要な取り組みです。
本記事では、製造現場で長年使われてきた定番の改善手法「7つのムダ」について解説します。これはあくまで改善の基本知識ですが、製造現場の実践においては今なお有効な考え方で、古くから言われている内容ですので、復習を兼ねて解説します。
私自身、現場で作業着を着ていた頃から、経営者として、そしてコンサルタントとして製造現場を俯瞰するようになった今に至るまで、数多くの「ムダ」と向き合ってきました。
その中で感じるのは、「改善しているつもり」でも、本当に効果が出ているかどうかを測る仕組みがないまま進めているケースが多いということです。 もちろん、「7つのムダ」の改善を実行すればすぐに収益改善するまでの結果が出る、というわけではありません。
しかし、現場のムダを見える化し、改善の基本データとすることは効率化の第一歩であることは間違いありません。
また、「知っている」という内容でも、実際に取り組み結果を出すことの難しさは、製造現場をよくみている社長であればよくご存知のことと思います。
これから説明に入りますが、改善の基本は「直接作業」と「間接作業」の見直しにあります。つまり、早く作って生産性を向上させるか、ムダな作業を削減して、売り上げにつながる作業時間を増やせるか。この2つの視点が軸になります。
7つのムダと改善事例
製造業において、ムダを見つけ、効率化を進める上で欠かせないのが、トヨタ生産方式で提唱された「7つのムダ」という考え方です。
これは、現場に潜む非効率な要素を体系的に捉えるためのフレームワークであり、今でも多くの製造現場の基本となっています。
ここでは、それぞれのムダの特徴と、実際に私が関わった現場での改善事例を交えてご紹介しますが、「そんなこと起こるはずがない」と思うような事例もあるかもしれません。
しかし、実際に製造現場で作業を行っている社員のみなさんは、作業マニュアルや作業指導に基づいて作業を行われていることと思います。したがって、指示通りにしなければならないと思い作業をしていますので、ムダがあると思っても、上司の指示だからその通りにしなければならない、作業を変えてしまって品質に影響が出たら責任持てない、などと考えながらも仕方なくやっていることもあるものです。
また、作業しているみなさんが、真面目であればあるほど、従わなければならないと思いこみ、一見ムダだと思うようなことでもやってしまうものです。
そのような状況では、社長や管理者が外からの目線でしっかり分析する必要があるでしょう。
※関連記事:製造現場のあるべき姿とは?経営経験を元に理想と現実を解説
加工のムダ
「必要以上に手を加えること」が加工のムダです。例えば、図面にない面取りや過剰な仕上げ、調整などが該当します。
ある機械組み立て工場では、ベテラン作業者が「念のため」と追加で図面上にない曲げ加工を追加していました。
ベテラン作業者が言うには、「もしこの部品を外した時にこの出っ張りがあると邪魔になるから」という理由でペンチを使って板を曲げていました。
確かに言う通りではありましたが、問題は、当然ムダな工数が増えます。さらに、別の作業者がその工程の作業を行った時、曲げ加工をする者、しない者がいて、製品にバラツキがありました。完成品になった時に使用上問題になることはありませんが、作業の効率化や作業の管理面で問題がありましたので、この曲げ加工は廃止になりました。
それにより作業時間は1日30分ほど削減でき、関係する作業者の作業統一をすることもできました。
在庫のムダ
「必要以上に材料や仕掛品、完成品を持つこと」が在庫のムダです。
在庫を作るには資金が必要です。在庫が売れるまでは現金化できません。したがって現金が物に変わっただけですので、売り上げて資金化できなければキャッシュフローを悪くします。
倉庫スペースを圧迫するだけでなく、物が動かないところに倉庫代を払うことになります。また保管場所の光熱費、人件費、保険料などの在庫管理のコストがかかります。
時期が過ぎてしまうと、在庫は廃棄せざるを得なくなります。当然かけた費用は全て損失です。材料費だけでなくそれを加工するためにかけた社員の時間と労力、人件費も全てムダになります。
ある部品加工会社では、材料発注を製造現場の担当者が行なっていました。「もし不良が多く出てしまったら・・・」という不安があったため、材料発注量を管理部が想定している3割増しで発注していたそうです。在庫数量の把握も別部署の担当者が行なっていて、設備で生産する数量は受注量に対して行うのではなく、別部署の担当者に在庫確認をしなければ生産数量を決定できなかったという状態でした。
業務の流れと役割分担を変更したことで、材料発注は営業担当者と製造現場の管理者により行われ、倉庫スペースが1割程度空き、現場の作業者による生産数量の決定作業も無くなりました。
不良(手直し)のムダ
「不良品や手直しが発生すること」が不良(手直し)のムダです。納品できない物、通常の生産工程にない作業が増えるわけですので、最もわかりやすいムダのひとつです。通常生産ライン最終の検査工程で見つけられますので、それまでの作業と材料が全てムダになることが目に見えてわかります。
さらに、不良によって不足した分を作り直さなければいけませんので、この作業も本来発生しない費用がかかっています。納期に間に合わせなければいけないからと時間外や休日出勤をして対応しなければならなくなった場合、損失はさらに拡大します。
ある電子部品メーカーの事例です。
15工程ある加工を経て、検査工程で製品検査を行います。この工程で異常箇所を見つけ、手直しを行っていました。通常1〜2%の手直し率だったものが、急に30%近くになりましたが、作業者は「手直しは通常の行わなければならない作業」と考え、時間外勤務の時間に複数名で手直し作業に追われているということがわかりました。
この指摘は製造現場からではなく、タイムカードで給与計算を行う経理部門から指摘でした。
製造部門の上長はこれを、現場の担当者に任せているとして追求していなかったようです。
生産工程に問題があるのではないかと調査を行ったところ、5工程目の作業である作業者が行うと決まって出ていた不良だということがわかりました。
作業者の手技に問題があったため作業指導を行い、元の手直し率に落ち着いたそうです。
手待ちのムダ
「作業者が手待ち状態になること」を手待ちのムダといいます。前工程が終わるまで後工程の作業者は待たなければいけない状況があったとき、この待ち時間は何も生み出しませんので、ムダな時間というわけです。
ある金属加工工場の話です。設備の段取り替え作業が2時間以上かかるような作業があり、その設備の通常生産のオペレーションはできるが、段取り替え作業はできない作業者がいました。
したがって段取り替え作業が発生すると、このオペレーターは作業がなくなり手が空くわけです。別の生産ラインの応援ということも対応してもらってはいますが、応援して大人数で生産しようとも設備の生産能力は決まっています。その間作業者の負担を軽減することはできても必要な作業とは思えません。
その対策として、段取り替え作業の手順を細かく分解し、作業者でも対応することができるような段取り替え作業がないか分析しました。このことにより段取り替えを習得した作業者にしかできない作業と、周辺の準備や片付け、試打や測定、製品検査などの作業を作業者にやってもらうことにより、手待ちのムダが無くなっただけでなく、段取り替え時間が1時間ちょっとで終わるようになりました。
作りすぎのムダ
「必要以上に製品を作ること」はその名の通り作りすぎのムダです。在庫のムダにも直結しています。
「作業者の手が空くから」「どうせ来月も受注があるだろう」と言って空き時間に生産計画数以上に生産することも作りすぎのムダです。こうなると手待ちのムダがさらに作りすぎのムダを呼び込んでいるとも言えます。
生産計画とそれに合わせて行う人員配置。どの工場でも行われている管理業務だと思います。
ある電子部品メーカーでは、全8工程の生産ラインがありました。どの工程も生産能力が異なり、作業者が使用する加工治具も1ライン分しかない工程もあるため、生産能力のある工程はたくさんできてしまい、生産能力のない工程の前に溜まってしまうということが日常茶飯事でした。
さらに人員配置についても仕掛品が溜まっているにも関わらず、生産能力のある工程に作業者を配置しており、理由は「どうせ作らないといけないものだから、先に作って貯めておいても問題ない」という判断のようでした。また、そこに割り当てられた作業者は、対応できる工程が他にあまりなく、その工程に配置しているとのことでした。
この結果、仕掛品がどんどん溜まっていき、生産計画数分以上作って貯めている状態があるのはもちろん、作業ミスや設備や材料の不具合により製品に異常があっても気付かず、不良の山を作っていることもあったようです。
また、またすべての工程を異なる作業者を割り当てていたため、必要数生産したら他の生産ラインに移動する、仕掛かりが溜まってきたらまた生産ラインに帰ってくるという指示を、現場の管理者が行わなければならない状態でした。
これに対し、特定の工程しか対応できなかった作業者には作業指導によりすべて対応できるようになってもらいました。そして、工程ごとに1日の必要稼働時間を計算し、複数工程をまとめてできるようにし、8工程を工数がほぼ同じになる前半と後半の2つにまとめ、2名の作業者だけで生産ができる体制を整えました。
この結果、仕掛品が貯まるのは前半と後半の間のみで終業時間にはその仕掛品もない状態にすることができました。また、人の出入りの管理もしなくても良くなるため、管理者の負担を大幅に減らすことができました。
動作のムダ
「作業者のムダな動き」もムダの一つです。動作が多いほど生産性は低下します。
ムダな動きと言っても、自然と身についてしまった動きもあったりします。そうなると無駄とも思わなくなってしまうため、後から指摘されても身についてしまったものはなかなか変えられるものではありません。
また、人の意識に頼ったムダ動作の改善は続きません。人の集中力はそれほど続きません。それを求めるほど疲労も溜まりムダが増えるだけでなく不良を発生させてしまうことや危険な作業にもつながってしまいます。
ムダな動きが発生しない枠組みを考えることが重要です。
例えば、工具の片付けをするだけでも「探す動作」というムダを省くことができます。
膝をついたり、踏み台を使ったり、扉を開けたりしなければ設備の点検ができない場合、メーターをよく見える1箇所にまとめるだけでムダな動作をなくすことができます。
運搬のムダ
「モノを必要以上に運ぶこと」もムダのひとつです。最後は、運搬の無駄です。ものづくりをすると必ず発生するのが運搬です。工場でものを作ってもお客様のところに届かなければ売り上げになりません。工場内では前工程のものが後工程に移動しなければ作業が進みません。
したがって、運搬は必要な作業と思われがちですが、モノが動いている間、製品に付加価値がつく(完成品に近づく)ことはありませんので、やはりムダと言わなければいけません。
また、前述した作りすぎのムダにより、運搬するモノも増えてしまうため、他のムダが関連していることにも注目するべきです。
運搬するのは製品だけではありません。
ある改善事例です。
生産前に、使用する材料の梱包を解く作業がありました。これまでは梱包されたままの状態で製造現場に持ち込み、使用する前にこれを解く作業を行っていました。梱包材はすべて近くのゴミ箱に捨てます。
一見普通の作業のように見えますが、このゴミ箱をわざわざ製造現場から倉庫近くのゴミ捨て場まで持っていかなければいけません。このゴミの移動は運搬のムダです。
対策として、倉庫近くで梱包材の8割方を解き、製造現場に持ち込むには十分な強度の梱包にしました。これにより製造現場からのゴミの運搬が、毎日行っていたところが5日に1回程度で済むようになりました。
経営者が製造現場を効率化するポイント
製造現場のムダ取りは非常に重要な取り組みです。ムダなく一直線に作ることができれば、最小限のコストで売り上げを上げることができます。また、最短で納品できキャッシュフローも良くなります。
というのは、実は机上の考え方で、ムダを削減し効率化を進めて経営改善に繋げるためには、製造現場だけの努力では成立しません。
製造現場だけで工場が成り立っているのではありません。その他の部署、機能、業務があり、実は製造現場はそれらに振り回されやすい立ち位置です。
特に経営者自身が製造現場に入りすぎてしまい、部分的に改善を行なってしまうと、全体最適を崩してかえって生産効率を下げてしまうケースも少なくありません。
ここでは、経営者の立場から製造現場の生産性向上、作業の効率化をするために押さえておくべき3つの視点を紹介します。
組織構造からムダ取りをしないとムダ取りがムダになる
現場のムダをいくら取り除いても、組織の役割や責任が曖昧なままでは、ムダ取りの効果が出ることはありません。材料発注が遅れたり、生産計画がいつまでも決定しなければ、それこそ製造現場全体が手待ちのムダとなってしまいます。
また決まったことを実行するためにリーダー役となる人の動きはとても重要です。現場の管理者がどんな役割を担っているのか不明確なままでは、現場の混乱を招くだけです。
まずは、業務の棚卸しを行い、役割と責任を明確にすること。その上で管理者と作業者の関係性を構築することが、経営者が現場から離れるための第一歩になります。
※関連記事:組織変革を成功させるための管理職の適性評価
人が動くほどムダが出る。IT化で業務の最短ルートを構築する。
「人が動く=ムダが発生する」と考えると、ITの活用はムダ取りの強力な武器になります。
生産ラインの加工作業で人が動いているのであればこれは売り上げに直結しますが、紙の帳票への記入、口頭での指示、Excelの手入力、メモを書いて渡す・・・。こうしたアナログな作業は、指示や報告の遅れ、内容の伝達間違いや解釈の違い、後で確認作業が発生する、など到底売り上げには結びつかない作業の増加を招きます。
例えば、作業指示や進捗管理をデジタル化するだけで、発信者が受信者と会うために探して移動することも無くなり、さらに全員が同じ情報を見ることで内容のズレも生じにくくなります。
IT導入は「モノを作らないコスト」と考えるのではなく、「ムダを減らす投資」として捉えるべきです。
※関連記事:高い授業料にしないIT導入の進め方
人が人らしく働くことができること
社員に対し「ムダを減らせ」というと、現在の社員の作業を否定しているようにも聞こえてしまいます。
さらに、上から「人を減らせ」「スピードを上げろ」と言ったのでは、作業者から「タダでさえ人が足りていないのに?」「こんなに頑張っているのにもっとやれというのか?」という声が聞こえてきそうです。
「ムダ取り」の本質は、「人が人らしく働ける環境を作る」ということです。
ムダな作業に追われ、「なぜ自分はこんなムダな作業をしているんだろう」と思わせてしまったらそれはもうOUTです。真面目に働いているのに貢献を実感できていないことの現れです。
ムダな作業があるまま工数管理をされれば、何の改善もせず早く作れと言っているようなモノです。言葉はキツイですが、作業者を奴隷扱いしているようにも取ることができてしまいます。
逆に、現場の意見を聞き改善を行うことでムダを取り、それが作業者の評価に結びつく環境になれば、製造現場に良い循環が生まれ組織風土も変わっていくことでしょう。
現場の人が自ら考え動くことができる「仕組み」を構築することが、経営者がやるべきことではないでしょうか。
まとめ
製造現場のムダ・作業の効率化について、一般的な内容と具体的な事例を交えてお伝えしてきました。
7つのムダというフレームワークで見てきましたが、製造現場で発生しているムダの全てがこの中のどれかに当てはめなければならないというモノではありません。
ムダを探す際、基準がなければ、闇雲に探しても何がムダなのかわかりませんし、普段から気をつけようもありません。そういう意味ではとてもよいフレームワークだと思います。
これが何十年も前に考えられ、今でも残っていることは昔の人たちの凄さを感じずにはいられません。
ITなどなかった時代です。ムダの数値化も、ムダ取りの評価も難しかったと思います。そうなると社員一人一人の、ムダに「気付く力」というものがとても重要だったのではないでしょうか。
作業指導で簡単に身につく力ではありません。製造現場全体がそのようなことに敏感である環境であり、気付く力、人間の力を持つ社員いること、そして社員一人一人がそういう意識を持って取り組んでいなければ、今の時代まで継承することはできないでしょう。
その当時に比べ、時代は大きく変わりました。
現代風に人間力を鍛えることとITの力を駆使して、ムダ取りによる作業の効率化や組織改革を進めることが、持続的な工場経営にとても重要なことではないでしょうか
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