製造業でよく行われる「工程改善」ですが、どうも経営改善につながっていない企業が多くあるようです。
社長の相談先は主に、コンサルタントや行政の相談窓口になっています。売上が足りない、利益率が低いなど、経営数値の悪さを根拠に相談に行かれます。この相談の後、その仕組みに則ってすすめると、決算書を見られたり、財務状況はどうなのか、返済状況や売り上げの仕組みや、どんな顧客をターゲットにしているのか?など、いわゆる「経営コンサルタント」の支援を受けることになります。
一方で、具体的に「工程改善」など、生産現場の技術的な内容の相談をしようとすると、製造系のコンサルタントや行政の相談窓口に行くことになります。
この場合、相談をした製造系のコンサルタントとそのままやり取りをするか、行政機関から製造系のコンサルタントを紹介され、やり取りを開始することになります。
「工程改善」「経営改善」、最近では「生産性の向上」「DX化」など様々なキャッチーなフレーズがありますが、経営改善につながっていない企業が多くあることを鑑みると、
・生産現場の工程改善は製造系のコンサルタント
・工場の経営改善は経営コンサルタント
・DX化やそれによる生産性向上は、DX・ITコンサルタント
というこの仕組みがマッチしていないのか、自社の課題に対してコンサルタント選択(何を専門にしているのか)が間違っているかもしれません。
社長は孤独だとよく言われます。日ごろの悩みをそう簡単にあちこちに言って回れるわけでもなく、他の社長と話をし、参考にはなるものの、解決策と言うには少し弱い。
そうなると、コンサルタントや行政の窓口はとても重要な相談先、話し相手、になるわけです。
藁にも縋る思いで相談に行ったのに、思ったような成果がなかったとならないよう、いいコンサルタントに当たるかどうか運や縁もあるかと思いますが、経営者としてコンサルタントをうまく使う必要があります。
製造業では、経営改善やDX化の実現のためには、生産現場の工程改善ができなければはじまりません。コンサルタントを使ってどうやって工程改善をしていくのか考えてみたいと思います。
まずは、工程改善とはなんなのか確認しておきましょう。
工程改善とは、生産現場の製造プロセスの各工程の見直しをして、効率化や品質の向上を図ることを指します。
具体的には、
- 作業環境の改善
- 作業手順の見直しやマニュアルの作成
- 不要な動作や工程をなくす
- 生産設備の稼働率の向上
など、時間当たりの生産数を増やしたり、不良が出ないようにする取り組みなどを行います。
コンサルタントは、どれに着手すればよいか判断してくれたり、そしてこれらのやり方を指導してくれたりするでしょう。
話が前後しますが、大前提として、経営が低迷している原因が、製造工程にあると特定できていることが必要です。
問題が売上が足りていない、仕入れ品の品質の悪さ、生産スケジュールの立て方の問題など別にある場合は、工程改善をしても経営改善につながらないのは当然のことです。この判断について、経営コンサルタントに相談することも手段のひとつではありますが、社長自身でできていてほしいところです。
しかし、「問題がないはずがない」「製造業だから工程改善を行わなければならない」と決めつけて取り組んでいる企業が多いのです。確かに現場レベルでは必要なことではあります。「乾いたぞうきんを絞れ」と言われた方も多くいることと思いますが、これは昔からの製造業特有の慣習のまま「いいものを作れば売れる」という発想の結果ではないでしょうか。
話を戻します。
経営改善には工程改善が必要な状況だと判断し、製造系のコンサルタントに依頼すれば、製造工程を見てもらい、改善点を洗い出し、具体的な改善に取り組むことになるでしょう。
1日とかからない改善を数多くしたり、取り掛かれば人数を確保し数か月間のスケジュールを立てて取り組まなければならない改善もあるでしょう。
この方向性やスケジュールは、必ず社長は確認しておかなければいけません。社員に任せてはいけません。
いや、コンサルタントに任せてはいけません。
社長は「あとは任せた」と言って、コンサルタントと社員だけの取り組みとなってしまった場合、経営改善の視点で工程改善を見る人がいなくなる状態になります。これは避けなければいけません。
そもそも、コンサルティングにより、設備の稼働率の向上ができ、1日当たり5%生産数増加が見込まれる、という部分的な効果があったからといって、稼働時間が減らせるので人件費が減らせる、その分利益が出る、キャッシュフローがよくなる・・・はずがありません。
5%生産数増加で効果が出たと喜んでいいのは、現場の社員だけです。社長はそれで利益が出ると安易に考えてはいけませんし、その効果によって利益が出るようにすることは、製造系のコンサルタントは教えてくれません。会社全体を見ている社長の仕事です。
「工程改善すれば経営改善につながる(経営数値の改善)」ということは、かんたんに言えば、「早く作れば利益が出る」と言っているようなものです。
大量生産の時代はそれでよかったかもしれませんが、何十年も前にそんな時代は終わりました。
工程改善をして得られた効果をその後どうすれば利益が出るのか、お金が残ることにつながるのかを考えなければならないのです。
そして、工程改善を進めるうちに契約期間が近づいてきます。
製造系のコンサルタントは、改善ネタはたくさん持っていますので、契約期間中に如何に改善効果を出させるかに必死になります。そして、契約終了前に、次の改善ネタを出し契約の延長を狙います。
社長はそれに振り回されてはいけません。
工程改善の効果が出ていたとしても経営改善につながっていなければ、効果のないコンサルティングを続けることになってしまいます。
工程改善の効果が出れば、社員はいくらか楽になります。社員が楽になることと利益が出ることとはイコールではないことは、だれでもわかることです。
社員に楽をさせるためにコンサルタントを雇っているわけではないはずです。経営改善効果を追求してください。
コンサルタントを雇う本来の目的があります。
それは、コンサルタントから自社にとって新しい「ノウハウ」をゲットすることです。経営改善をしてもらうことではありません。ノウハウを得て自社のものにし、自社の力で経営改善効果を出せるようになることです。
通常コンサルタント料は、社員の給与よりも高いものです。いつまでもコンサルタントがいないと改善効果が出せないようでは経費の垂れ流しです。この間コンサル料が改善効果に見合うことはないでしょう。
社員がノウハウを身に付け、コンサルティングを受けなくてもよい環境になれば、いつしか元が取れ、それ以上の成果を得られるでしょう。社長は、社員とコミュニケーションを取り、ノウハウが自分たちのとなっているか確認します。
最後に、とても重要なことがあります。
製造系のコンサルタントは、多くが有名な大企業の出身者ということです。
大きな組織の中で、様々な部署に異動し、様々な業務に携わって来られた方もいるでしょう。また、大きなプロジェクトを立ち上げ完結させたり、大きな工場を立ち上げたり、部下を何十人何百人抱えて、だれにも真似できない実績を残されていることでしょう。
しかし、そのだれもが、「元社員」です。
どんなに重要な部署の役職経験者でも、「経営者」の経験があったわけではありません。
その点で、大きく視点が異なります。どんなに小さな企業だったとしても、経営者にならなければわからないことが必ずあります。小さな企業であるほど、異動はないかもしれませんが、様々な業務を同時進行で一人何役も兼任しなければいけません。大企業ではその経験はできません。
大企業出身という名前に負けてはいけません。
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