年末の忘年会シーズンの話です。
様々な業種の経営者が集まり、来賓の方の長い挨拶があり、ようやくビールが飲めると思ったら、名刺交換や挨拶などでそれどころではなく、形式的な話が多く思ったことも話せず会は終了、という会があちこちで行われます。
年が明け、新年祝賀会と言われるものに置き換わり、似たようなことを繰り返し・・・よくまあこんなことに時間と労力を費やせるなあと他人事のように見ていますが、参加する私も私です。
この形式的な会の後が本番になるわけですが、ようやくいろいろな経営者と日ごろの活動や困りごとなど話し、他では言えないリアルな情報交換が行われます。
来賓の方の挨拶の中には、必ずと言っていいほど「人材不足」をテーマとした話題が入ってきます。
世の中の多くの会社が抱えている「人材不足」。話題に上げるには都合の良いワードですが、人材不足はホントに会社が抱えている問題でしょうか?
これは数年前に「DX」という言葉が急に流行りだし、多くの企業がDXをしなければならないと世の中に追い立てられて、慌てて問題の解決につながらないIT導入を進める会社が多くあるように、「人材不足」というワードが世の中に広がりすぎたために、企業が慌てて問題解決につながらない採用活動や退職防止の取り組みにつながっているように思います。
「人材不足」とは、それ自身が問題でしょうか?
また、人材不足が起こったときの解決策は、ホントに「採用活動」「退職防止」でしょうか?
ホントの原因を深く分析せず、いきなり方法論を実行していないでしょうか?
「なぜ、人材不足が発生するのか?」と考えて行くと、その原因が見えてくると同時に、人材不足はその原因により発生した現象だということがわかります。
人材不足の原因として言われることのひとつに、世の中の人口減少、地方の人口流出というどうしようもない現象があります。
これは、何年も前からわかっていることです。どうしようもないことですので受け入れなければいけません。
政令指定都市の神戸市のある兵庫県の令和4年のデータです。
出生数 33,565人、死亡数 66,541人、自然増減はマイナス32,976人です。
人が多く集まっているであろう神戸市だけを見ても、
出生数 8,941人、死亡数 17,978人、自然増減はマイナス9,037人です。
兵庫県ホームページ 人口動態調査(確定数)の概況より
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf02/documents/newr4jinkoudoutaikakutei.xlsx
今のビジネスモデルや経営体質が変わることがないのに、高度経済成長期のような経営目標を掲げていれば、人材が不足するのは当然です。
新しい設備を導入して生産能力を上げたり、生産ラインのカイゼンを行ったところで、問題解決方法のひとつではあるかもしれませんが、人材不足は解決しません。
なぜなら、その活動により「その人にしかできない業務」になってしまう可能性があるからです。
数年前(数十年前かもしれません)の生産ラインは、人をかき集めて生産ラインを構築するスタイルが多かったでしょう。
設備能力やIT化のレベルが今よりも低く、人でなければ作業できない部分が多く存在したためです。
しかし、今ではどうでしょうか?
様々な作業が、機械化・IT化され、人に頼らなくてもよい作業が多くなりました。少ない人数で生産ができるということです。
ということは、本来なら人材不足になるはずがありません。
したがって、
・機械化・IT化により別の作業が増えてしまい、結局人が必要になってしまっている
・機械化・IT化したことにより、特殊な作業になってしまい、特定の人にしかできない作業になってしまっている
などのようなことが考えられます。
省人化の効果がなかったことにより、人材不足に陥っているのです。
この場合、問題は人材不足ではなく、省人化の失敗です。
別の例を考えてみましょう。
ベテラン社員が行っている作業を考えてみてください。その作業は、ホントに難しい作業でしょうか?
ある工場の納品業務の話です。
納品業務が、ひとりのベテランのおじさんに任されていたため、だれもがあの人にしかできない、と口をそろえて言います。
次の問いをしてみました。
・台車を使って荷物の移動はできる?
・車の運転はできる?フォークリフトの運転は?
・資材を指定の場所から取り出せる?
・取引先に資材の発注はできる?
などなど、いろいろな作業単体で、できるかできないかを聞いてみました。
すると、そこにいた全員が「どれもできる」あるいは「教えてもらえばできる」と答えたのです。
さっきまで、自分たちにはできない難しい仕事と言っていたのに。
なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。
人の仕事 = 自分の仕事ではない = その仕事は習うこと・経験することがない
という流れができてしまっているため、そのベテランのおじさんしかできない、その状態のまま生産数が増え納品業務が増えれば人材不足になる。という流れが成立してしまいます。
社員30人もいて、聞けばみんながどれもできると言っているのに、起こらなくてもいい人材不足が起きているのです。
これは「組織改革」を謳っている会社の多くで起こっている現象ですが、組織改革の目的や改革によって解決したい問題が明確でなければ、前述のようなやり取りは発生し続けるでしょう。
経営陣の「人材不足」の認識が「組織改革」の成果に大きく作用すると言えるのではないでしょうか。
経営改善、組織改革などのワードが、なんともつかみどころのない抽象的なままになっているとしたら、実行しても何の問題解決にもつながらず、何の成果も得られません。
冒頭の会では、そのように抽象的なままでどの会社も抱えるような課題を共有して、困っているのは自分のところだけじゃない、っていう安心感が欲しいのかもしれません。
経営改善ができない原因が人材不足と言っていたら、もしかしたら、やらない理由を言っているだけかもしれません。
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