2025年が始まりました。今年も多くの方が、それぞれの目標達成に向け活躍されることと思います。
また、みなさんが経営される会社でも新たな目標を設定し、活動を始められることでしょう。「うちは決算期が6月だから、年始に目標設定するわけじゃない」と言われる方もあるかもしれません。そんな方は、その頃をイメージしてお読みください。
ある工場に勤める中間管理職の方から、「現場の改善目標設定しても、作業者は全然他人事なんですよねー」という相談を受けました。
相談のキッカケはいろいろですが、「作業者が業務を自分事として考えてくれない、行動してくれない」という相談は、とても多くあります。
社長がどんなにいい理想を語っても、どんなに具体的に現場のやるべきことを指示しても、実際にやるのは現場の作業者です。
その作業者が自分事として捉えてくれなければ、どんな理想も実現には程遠いということになってしまいます。
その理想の中でも、いちばん現場がやらなければいけないことでしょ!って言いたくなる、現場の改善目標を達成するための取り組みについても、現場の作業者は自分事として捉えておらず、形は活動してはいるものの、経営にインパクトがあるような改善効果はなかなか得られないのが現実ではないでしょうか。
その対策として、作業者に金銭的なインセンティブを与え、改善件数や改善効果を引き出す方法が取られることがよくあります。
改善案1件出すごとに○○円、改善効果が出たら賞与に反映、などがそれに当たります。
これはいわゆるニンジンぶら下げ効果ですね。
一時的には効果を発揮するのでしょうが、ニンジンがもらえなくなったらどうでしょうか?・・・途端にやらなくなったり、他人事になったりする想像しかできません。
社長の立場としては、ニンジンをぶら下げなくても、やってくれた人にはニンジンをあげたい、増やしたいと思うのが人情でしょう。
インセンティブの話を進めてきましたが、そもそも、自分事として物事を捉え自ら考え行動するには、設定された目標やそれに対する取り組みに「納得」ができなければいけません。
したがって、金銭的なインセンティブを議論しても自分事・他人事の問題は解決しません。「納得」できる金銭はいくらか?という議論になってしまうからです。
では、納得できる目標や取り組みとはどの様なものでしょうか?
それを導き出すには、人の感情を前向きに突き動かす様な、それでいて理屈っぽいとも言える極めて論理的な思考が必要です。
例えば、現場の改善活動を行うにあたり、改善の取り組み内容を「工具棚の整理整頓」、目標値を「必要な工具や部品の持ち出し時間を20%短縮」とした場合を考えてみましょう。5S活動でよく行われるような内容ですね。
工具や部品の持ち出しを行う社員がその作業に困っていることがあれば、自分ごととして考え、取り組んでくれるかもしれません。
しかし、「そんなことより他にやることあるでしょ」「20%短縮したところで何の得があるの?」と社員が思ってしまえば、取り組んでくれるかどうかわかりません。また、その作業がない社員には、まさに他人事です。改善効果を出したところで自分には何の得もありません。
さらに、管理者が設定した改善活動内容によっては、社員の気持ちを逆撫でしまうことさえあります。改善活動内容の提示が「おまえら、そんなこともできないのか!」と発信していることになるからです。例の取り組みだと、「工具棚片付けろ!」とハッキリ言ってくれた方がいいかもしれません。
このように、理屈では筋が通っている改善活動内容と目標設定値であっても、それにより社員の感情をプラスにもマイナスにも振ってしまうことがあることは、十分に認識しなければいけません。そして、なんとか活動を終えたとしても、その成果が社員の感情を前向きにするものでなければ、長い目で見ると逆効果になることもあります。「わざわざ生産ラインを止めてまでしてこの成果?この成果のために残業までさせられたの?」と思われれば、継続してその活動が行われることはないでしょう。
相談に来られた方は中間管理職です。中間管理職であれば、上司や社長から指示や命令があるでしょう。その内容によっては、納得がいかないものだったり、感情を逆撫でする様なものだったり、理不尽なものだったり、そのような経験はあるようです。
自分も同じ様な設定をしているのではないかと反省しておられました。
しかし、設定した取り組み内容に問題があるかどうかは、中間管理職の方だけの責任とは言えません。
社員が「納得」して目標達成に取り組むには、まずは社長が掲げる経営方針、経営目標が、中間管理職の人たちが納得できるものであることが重要です。
あるいは社長が飛びぬけた人であればその経営方針は凡人には理解しがたいことかもしれません。であれば、社員が納得できるまで丁寧に説明する必要があるでしょう。
間違っても、特に根拠もなく、前年度比10%増、または減、などと適当に設定してはいけません。10%増の結果が出せたら、この会社はどう良くなるのでしょうか?10%減の結果が出せたら社員にはどんな還元があるのでしょうか?
生産性向上のため、利益率向上のため、改善を行う目的はいろいろあると思いますが、実際にその活動を行うのは現場の社員です。実行可能かどうか、継続可能かどうか機会があるごとに注意深くなる必要があるでしょう。
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