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2024.12.03

13.パワハラを発生させない”別の”方法 

ある会社の社長に、こんな相談をされました。 
「頼んだことを、いくら言っても期限までにやって来ない社員がいるんだけど、それが一回ではなく何度も。それでも申し訳なさそうにもしていないんで、これは厳しめにクギを刺しておかないと、って思って注意したら、自分でも思っていなかったくらい怒鳴っていたみたい。やっぱりこれってパワハラになるよね~?」 
 
こんな場面、想像つく方は多いのではないでしょうか。言ったことがなかなかやってもらえない、なぜ自分の指示を聞いてくれないのか、自分の指示が間違っていたのか、自分は何を言ってしまったんだろうか・・・こちらの方が不安にならざるを得ません。 
 
この社長はパワハラを心配してこられましたが、一般的なパワハラを防ぐための対策として、 
・ 経営者からの「パワハラは許さない」というメッセージの発信 
・ パワハラに関するルールを就業規則に明記し、社員に周知する 
・ 社員に対して、パワハラに関する教育や研修を行う 
・ パワハラを受けた人が相談できる窓口を設ける 
・ 現場でパワハラが行われていないか実態を把握するためのアンケートを実施する 
など、様々なことに取り組みが必要だと言われています。 
参考:東京労働局 パワーハラスメント対策導入マニュアル 第4版(令和3年度版) 
 
これら一般的な対策は、パワハラをしてしまう可能性のある、上司や先輩にあたる人を対象に、「パワハラになるような行動はするなよ」っていうクギ刺しです。 
また、一般的にパワハラを受けやすい人には、次のような共通点があるそうです。 
・ 真面目で従順: 上司や先輩の指示に従いやすく、反論しないため、ターゲットにされやすい 
・ 自信がない: 自分に自信がなく、おどおどしている人は、攻撃の対象になりやすい 
・ コミュニケーションが苦手: 周囲とのコミュニケーションが少ない人は、孤立しやすく、パワハラの標的になりやすい 
参考:厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課 職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度厚生労働省委託事業) 
 
これまでの実績から傾向としてそのようなデータがあるのだと思いますが、こういう人はパワハラを受けやすい、だから気を付けましょう、という議論は、パワハラが起こる原因を人のせいにして終わらせているだけですので、絶対に解決しません。 
 
世の中いろんな人がいますから、相手がどんな人なのかそれぞれに合わせて個別に対応することは困難です。配慮は必要だと思いますが、その配慮はだれに対しても必要なものでしょう。 
 
問題解決において、人を原因にしたり、原因がよくわからないまま一般的に行われている対応策を実行してみたとしても、何の効果もありません。パワハラのような事例が発生したら、その状況を分析し、会社の中にパワハラが発生してしまうかもしれない仕組みを探すことが重要です。 
 
今回はパワハラが発生させない会社内の仕組みを考えてみたいと思います。 
 
パワハラは一人ではできません。必ず被害者となる相手がいます。 
冒頭のやり取りでは怒鳴られた社員が被害者となるわけですが、彼はホントに被害者でしょうか? 
見方を変えれば、悪びれもしない社員によって、上司はパワハラを誘発させられた、と考えざるを得ません。 
 
そう考えると、被害者になる可能性がある側に対しても、社内でパワハラが発生しないようにするための対策、経営側からの発信は必要になってくるのではないでしょうか。 
 
以下に、被害者になる可能性がある側に対して発信するべき内容をまとめてみました。重要なものは2つです。 
 
ひとつは、以下の3つのルールに関する内容を必ず伝えなければいけません。 
就業規則をはじめとする会社内のルールとルール遵守の重要性(これは厚生労働省の参考資料でも言っています) 
会社組織図について、部署ごとの機能や役割、役職ごとの責任や権限、一般社員の立ち位置や役割 
業務上のコミュニケーション手段 
これらを発信しっぱなしではなく、教育の場を設ける必要があります。現場の作業指導などのOJTの中で、このような内容も含めることが必要です。 
 
そして、これらルールに関する内容は、被害を受ける可能性のある社員に対してだけでなく、上司や先輩にあたる社員にも、共通して周知されていなければならない内容です。それぞれに周知内容を分けるのではなく、同じルールを守ることがとても重要です。 
 
では、なぜ当たり前のルールが両者にキチンと伝わっていないのか、あるいは守られていないのか? 
 
これは、明文化されたオフィシャルな「ルール」と、明文化されていない会社の雰囲気やベテラン社員の日ごろの習慣から自然発生的に出来上がった「慣習」が混在することによります。先輩社員にとっては当たり前のルールだと思っていることが、部下社員にとっては意味不明なものであることは少なくありません。 
したがって、部下社員たちは、悪気もなくルールを破っている状態になってしまい、先輩社員に怒られてしまうことがあるということです。 
そんなことで怒られれば、パワハラ上司だ!って騒がれてしまうかもしれないことは想像がつくでしょう。 
 
重要なもののもうひとつは、スキルアップにつながる指導体制です。 
特に製造業では、現場の生産作業しか売上を生み出しません。新人社員は特に、早期にこの作業を習得できなければ、いつまで経っても先輩社員に負担をかけるばかりです。はじめのうちは優しい先輩社員も、日にちが経ってくればそうもいきません。 
この時、時間をかけて指導したのになかなか習得してくれない社員なのか、日にちが経っているのに指導者が十分な指導時間を確保しなかったのか、これにより状況は変わります。 
 
どちらにせよ、指導実績と習得状況を管理する体制がなければ、対応の仕方を間違えます。 
往々にして、無管理状態の作業者と指導者だけのやり取りになり、指導者側が仕事ができない社員のせいにしてしまうことが多く、この状況がパワハラを生んでしまうのです。 
逆に、指導者が十分な対応をしていれば早期に習得し戦力化するため、パワハラが起こる様な状況も生みにくいでしょう。 
 
冒頭のやり取りでは、聞いた話から得られる情報からは、どうやら指示を受けた社員の方が悪いのは間違いなさそうですが、ルールが不明確、慣習でコントロールしている、当たり前のことだから教育もしていない、一回教えたんだからあとは自分でやれ、というような状態だとしたら、別の社員が同じことをやらかしてしまうかもしれません。 
 
もしかしたらパワハラの原因は、上司である自分で作っているのかもしれません。 
一度、社内のルールや教育体制の見直しをした方がよさそうです。 
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