先日、ある集まりで出会ったばかりの方と、食事をしながらの話です。
この方は東京を起点に全国に飛び回っておられ、多くの企業を増収増益に導かれた方で、実績も経験も未熟な私のどんな意見も、真剣に聞いて答えてくださり、忌憚なく話してくださる懐の広い方でした。
とても初対面の方との話とは思えないほど中身の濃い話でしたが、話というのは、「高学歴の大企業の社員でも『仕事ができない社員』っているよね」について。少しきつい言葉ですが、大した学歴ではない私にとって、また採用する側の立場で考えて、とても重要なテーマなのです。
中小企業よりも大企業の方が生産性が高いことは以前から言われていますが、大企業では仕事ができない人がいるにもかかわらず、なぜ生産性が高いのか? 高学歴の人が集まっているから生産性が高いというわけではないということなのか? 高学歴の集まりの中のレベルでできない社員と言っているのか?
大企業と中小企業で何が違うのかを話す前に、大企業は生産性が高いということはデータで示されていますが(中小企業白書など)、人がいつの間にか定義づけている「仕事ができる」の意味を考える必要があります。
大企業と中小企業の構造の違いから考えてみると、中小企業より大企業の方が、働いている人がみんな賢い?ということだけではなく、組織で動いている、企画・開発から販売・アフターまで全てできる、のようなイメージがあるかと思います。特に組織で動いている、という点について考えてみると、業務を遂行するための機能を持った様々な部署が作られ、部→課→係・・・の様に仕事の範囲や権限などの内容が細かく分けられ、その部署でのやるべき仕事が決まっています。いわゆる分業制です。
例えば、企画・商品開発が得意な人は商品企画部、設計が得意な人は技術部、営業が得意な人は営業部、製造が得意な人は製造部、の様に、人の得意分野と働く場所が一致しています。
そして、異動が頻繁にある企業であれば、誰がその部署に配属されても業務に対応できる様、誰にでもわかる様に仕事の進め方が決められていたり、誰もが同じ結果を出すことができるノウハウやロジックがあったり、さらに役職の階層ごとに何をどこまで判断しても良いという権限と責任範囲が明確にされています。
このことにより、どんな商品を開発しても、売り上げて回収するまでの流れはほぼ同じ。そのため生産性は高くなっているということは大きな要素ではないかと考えられます。
一方で中小企業では、組織図が作られているところは多くありますが、その部署の機能や部署内でのやるべきことが明確になっている会社がどのくらいあるでしょうか。より規模の小さな企業では、社長以外全員作業者という組織も多くあり、社長か社歴の長い社員にしかわからない属人的ノウハウで業務が進められていることが結構な確率で存在しています。
そして、この様な企業における「できる社員」についてですが、社長や社歴の長い社員だけが頭の中に持っている「勝手な基準」により設定されていることがほとんどです。
この勝手な基準、多くの場合、部署や役職関係なく「臨機応変に対応」する社員のことを言っています。
みなさんは、この社員をできる社員だと思われますか?
「臨機応変に対応」する社員が出てくる原因は、中小企業が大企業と同じ様に分業化を行うと、事業規模が小さいために、分けた部署の仕事量が、社員一人の持ち時間に対して足りないことが多くあるためです。
経理の仕事をするために、学生時代に経理を学び経理部門のある会社に就職したとしても、経理の仕事量は月の半分、半日で終わってしまう、ということはざらにあります。その仕事量をわざわざ1ヶ月間毎日1日中かけてする必要はありませんし、それこそ「生産性が低い」でしかありません。
そうなると、空き時間には他の仕事をしてほしい、ひとりがいくつもの業務を抱えなければならないということになるため、その会社の社長や社歴の長い社員にとっては「できる社員」という評価になるのは必然となります。
中小企業では、大企業と同じ様に役割分担することは事業規模的にとても難しいのです。
一方で、この社員が大企業で働いたらどうなるでしょうか?
ちゃんと仕組みが構築され、その仕組みに従い業務を進める場面で、部署や役職関係なく「臨機応変に?」動かれてしまっては、業務がストップしてしまいかねません。この社員は「ウロウロしている社員」と言われてしまうでしょう。
できる社員になるか、ウロウロ社員になるか、の分かれ目は、会社の仕事の仕組みを社長が作っているかどうか、にかかっています。
会社にどの様な機能を持った部署を作り、その中でどの様な仕事の進め方をすれば良いのか、これを明確にしてそれを遂行することができる能力を持った人材を配置すれば、必ず仕事ができる人、と評価されることでしょう。
ですので、この逆も然りで、仕事の進め方の設定が間違っていたり、人材配置を間違えたりすれば、仕事ができない社員を作ってしまうのです。
いくら高学歴で理解力があり特別な技術を持っていても、その能力に合わない部署に配属されればできない社員になってしまいますし、もっと根本的なことを言えば、自分の性に合わない仕事であれば高学歴であってもできない社員になってしまう可能性はあります。
このように仕組みの作り方とその運用の仕方で、できる社員とできない社員は生まれてきてしまいますし、その基準も変わってしまいます。
多くの中小企業のように、仕事の進め方が、社長や社歴の長い社員の頭の中にしかない状態では、たまたまそれにぴったりくる社員しかできる社員は生まれてきません。仕事の進め方を定義するだけで、できる社員がどんどん増えてくる可能性はあるのです。
学歴が高いかどうかだけでなく、モチベーションが高いかどうかも関係なくなります。
そもそも仕事をし、その結果を出せる環境がなければ、こんな仕事してもうまく行くはずがないと社員に思わせてしまう様な環境であれば、社員のモチベーションなんて上がることはありません。
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