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コラム
2024.10.15

6.必ず考えなければならないIT導入の壁

今回は、受付業務がある他企業の職員さんとの会話から話を進めたいと思います。

「設備導入やIT化で受付業務が自動化されたら、その業務はなくなって生産性が向上したって言えると思うけど、そこにいた職員さんはその後どうしてるの?」私の方から職員さんに、そう尋ねてみました。
IT導入は必要な取り組みではありますが、成果を成果と言えなくなる人が出てきてしまうことは容易に想像つきます。ですので、IT化の目的である生産性向上後の副作用を、そのまま放置しておくわけにはいかないはずです。

製造業でなかなかIT化が進んでいないという話をよく聞きますが、世の中の動きを見ると、多くの自治体や行政機関で、IT化によって生産性を向上させる取り組みに、上限いくらまで、かかった費用の半分を補助するなど、さまざまな補助金が準備されています。私の経営する工場がある自治体では、毎年のように職員さんに補助金の案内をしていただくことができますが、首都圏や関西圏など企業が多い自治体では、職員さんがそのような対面対応することは不可能なようですね。せいぜい案内のパンフレットなどが届くくらいのようです。

少し話がそれましたが、国中がIT化によって生産性を向上させたいという動きは、補助金の内容の変化からも世の中の変化をわかりやすく感じ取れます。この流れと事業の進める方向が近ければ、補助金を使うチャンスが生まれると思いますので、このチャンスは無理してでもつかんだ方が、事業を大きく前に進めやすくなります。

話を戻しますが、 一般的にIT導入すると、何かの業務が自動化され、その業務に携わっていた人の負担を軽くすることができます。

「省力化」ですね。

残業時間にやっていたことが所定時間内に終わる、社員の負担は軽くなり、8時間分の仕事はある、というような「ちょうど良い」生産性の向上であれば、その作業に関わっていた社員にとってはハッピーですね。
しかし会社側としては、残業を削ることだけが目的ではなく、社員の負担を取り除きたいとは考えますが、楽をして欲しいとは考えません。IT化にかかった費用をペイするだけでも足りません。IT化をすることで手の空いた社員さんによって、生産数が増えたり、利益が増えたり、今までできなかった新規事業や商品開発などの新しい取り組みができるようになったりすることまで求めなければ導入の意味が薄れます。

そうすると「ちょうど良い」程度の生産性の向上では不十分です。

「ちょうど良い」程度の生産性向上により、ホントに社員さんがちょっと楽になっただけでこの作業のIT化の取り組みを終了するとどうなるでしょうか。
時間が経つとノウハウが溜まって行ったり作業に慣れてきたりして、8時間かかっていた作業が、6時間で終われるようになってきたりします。それでも、なぜだか知らないうちにその人にしかわからない作業が増えたりしていて、結果的に就業時間まで8時間作業をしていて、2時間分の生産性向上がどこかに消えてしまうということは業務改善あるあるです。

削減した2時間分、他の業務に携われば、その業務の残業をなくすことができるかもしれませんし、生産ラインに入ることができれば、今まで売上にできなかった受注分を生産することができるようになります。
本来経営者は、そのようなことを望んでいるはずです。

一方で、社員目線ではどうでしょうか?
例えば、冒頭の受付業務を行う社員さんの業務が、IT化によって生産性が向上した場合、空き時間ができるようになります。受付はWebのみということも可能ですので、空き時間どころか業務そのものがなくなってしまうこともしばしばです。
そうなったときに、その社員さんは何をすればよいでしょうか?

消化できていない有給休暇を取りまくるっていうこともアリですが、業務遂行を前提で話をすれば、どこか他の業務に携わったり、他の部署に異動になったりします。もともと入社時に、受付業務で雇用契約を結んでいたり、人事部から配属を決められたり、上司から業務を指示されたりします。部署の異動や他業務に携わることは、社員さんの立場だけで考えて勝手にできることではありません。もし社員の判断で忙しそうな業務を応援するとか、今までなかった業務を追加するなど行なっていたとして、それを自主的に主体的に自ら考えて動いてくれている、と勘違いしてはいけません。これは組織体制を乱す動きにもつながります。

ですので、社長が人事の権限を正しく使わなければいけません。

雇用された当初、そろばん10段と商業簿記の資格があるから経理で雇用されたベテラン社員は、IT化によってどういう人事になるでしょうか?その社員さんの努力と会社が設置するリスキリングの制度を使って、引き続き経理の業務を続けてもらうことはできるかもしれません。しかし、現在では経理関係はシステム上でほとんどの処理はできてしまいますので、PCに慣れている新卒社員でも十分に業務を遂行することは可能な時代になっています。入力されたデータからお金まわりのことを分析して社長に助言、情報提供する等、知識と経験が必要な業務を除けば、あとは誰でもよいということです。

今では、インターネットバンキングなどにより、銀行に行く必要もほとんどありませんので、入金や出金の用紙の書き方さえ知らなくてもいいのです。仕訳の入力も摘要の判断もAIがやってくれる時代。いくら努力しても人が要らなくなっていきます。
そうなると、この社員さんの処遇を考えなければいけません。

冒頭の受付業務の社員さんは、営業に配属になったようです。今ではその部署で活躍されているようですが、全員がそううまく行くわけではないようです。

製造現場でも当然同じことが起こっています。
手先の器用さが必要な手作業、体力がいるような作業は、ずいぶん昔から機械に置き換えられています。あるいは人件費の安い海外の人材によって行われています。
今では設備にロボットやAIが搭載された装置など、IT化はどんどん進んでいます。
作れば売れるという時代とは、人に求められている能力が、まったく変わってしまっているのです。

このように時代が変わっていく、求められるものが変わっていくという状況は、どの社長もご存じだと思います。
しかしここにIT化の壁が隠れていることに気付いている社長は、あまりいません。

あなたの会社では「できる社員」とはどんな社員でしょうか?
生産能力が高い社員でしょうか?知識量が豊富な社員でしょうか?技術力の高い社員でしょうか?それとも他の社員とコミュニケーションを取って仕事をできる社員でしょうか?その場の空気を明るくするような社員でしょうか?
いろいろな判断基準があると思いますが、「できる社員」の基準を明確にしなければ、IT化により発生する副作用発生が社員にとって都合の悪い方向に向くことは抑えられず、それを事前に察知する社員によってIT化が進まないということさえ起こりうるのです。自分の仕事がなくなる、今まで積み上げてきた経験が生かせなくなる、これはこの会社で自分は不要になってしまうのではないかという自然な危機感です。

あなたの会社では、PCは使えないけど手先の器用で作業が早いベテラン社員と、器用さは人並みでまだまだ経験は浅いけどPCが使えて設備の故障にも対応できる可能性のある新卒社員、どちらを高く評価しますか?どちらを優遇しますか?

あなたの会社では、どんな社員を「できる社員」と位置付けていますか?それを社員のみなさんに発信・共有できていますか?
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