先週の異業種交流会での経営者同士の会話で出てきた言葉です。
「社員には、いつも経営者の立場になって仕事するように言っているのに、なかなか育ってくれない」
経営者同士で社員の話になると、度々経営者から出てくるワードですが、多くの場合、現場で社長の思惑とは異なった行動をした社員によるトラブルがあったときに、このような話題が出てきます。「先週うちの社員がなぁー、取引先とのやり取りでこんなことを言うとってー・・・」のような感じです。
会社であったことを愚痴を含めて話をするのがこの手の交流会ですので、まったく悪いことではないと思います。こういう問題があった、と困りごとを相談する経営者と、そういう時にはうちの会社ではこんな風に対応したよ、と解決策や体験談を話してくれる経営者と、そのような情報交換をすることでお互いの会社を良くしようとしている行動ですので、外から見て、なんで愚痴を言いに集まっているのか?とは言わないでください。
ただ、この手の情報交換では、モヤッとするワードが出て、気になってしまうことがあります。
今回の場合だと冒頭のワードなのですが、発した社長さんは「経営者の立場になって仕事しろ」とは、具体的にどんなことを社員に求めているのか?ということ。これが気になって仕方がない。社員が、社長の「勝手な」理想よりも程度が低い行動をしたり、社長が「勝手に」頭の中で設定している標準スペックより低く見えてしまったりしているから不満になり、愚痴となり、他の社長に相談してみる、という流れだと思います。
・社長もこれだけやってんだから、同じくらい仕事をしろ!
・考えればわかるだろ、頭を使って仕事しろ!
・言ったことしかやってない・・・
言われた社員としては(聞こえてはいないかもしれませんが)、そんな不満を自分にぶつけられても・・・という気持ちになるんじゃないでしょうか。
(本人のいないところでの話とは言え、今の時代、SNSとか発達しすぎていますので、発言が漏れてしまっているかもしれません。気を付けましょう。)
情報交換というテイの愚痴の共有は進んでいきます。そして、この言葉の定義も定かでないまま「言わなくても普通わかるだろ」「それは常識的に考えて言えばいいだろ」「経営者の立場になって考えてみれば・・・」と会話は進んでいき、いつしか社員は№2の仕事をすることを求められているのではないのか?という話にまで発展していきます。№2の仕事も不明なのに。
社長が「ホントに」社員にそこまで求めるのであれば、それを社員に明言する必要がありますし、そこまでの能力があるのかも見定めなければいけませんし、その能力がありその業務を習得してほしい、実行してほしいのであれば、それなりの評価をしてそれに見合う給与が結びつかなければいけません。その前提があってやっと社員は納得して安心して仕事に取り組むことができます。
これが一般的に言う「評価制度・給与体系」に結び付くものになるのですが、このような場ではなかなかそのようなところまで話は発展しません。
ですので、このような会話は「情報交換というテイの愚痴の共有」で終わるということになります。解決しなければいけないと思えば「評価制度・給与体系」の部分に手を付けなければいけないと思いますが、そこまでやるとは考えていなかったり、できない理由を言ったりしますので、「ホントに」求めているわけではないのでしょう。
たいていの場合、「社員のやる気のなさ」「仕事に対する意識の低さ」のせいにして話は終わり、まさに昭和の風景を見ているようです。
このように、結論や解決策まで話をせずに終わってしまう理由のひとつは、「約束」を守る自信のなさの表れではないでしょうか。
社長が「こうしたい」がルールになり、社員に守ってもらうことになりますので、社員と経営者との「約束」になります。ビジネスなので「契約」でしょうか。これは社員の能力や働きぶりを評価する仕組みを構築すること、「評価制度・給与体系」を決めることを意味します。
どちらにしても、経営者の方がその「約束」「契約」にシビアにならなければいけません。経営者がルーズなら社員もルーズになります。経営者がルーズなまま社員に約束を守れとは言えないはずです。
実際に「評価制度・給与体系」の仕組みを作ったとして、その「約束」「契約」に従い下した評価が、社員と経営者共に納得のいくものでなければいけません。
社員に良い評価を付けた場合、社員は納得してもらいやすいと思いますが、経営者はそれに見合った給与を分配しなければなりません。売り上げが少なければ原資がありませんので評価通りの給与が払えないこともあるでしょう。評価と給与の乖離があれば、途端に社員は不満を抱きます。
悪い評価を付ければ、社員はその時点で不満を抱くかもしれませんし、給与にも納得しないでしょう。客観的に見て悪い評価を付けられてもおかしくないような社員でも、自分のことは主観で評価してしまいますので仕組み通りに解釈してもらえない可能性もあります。
このように、社員を評価する、給与を設定する、ということは、経営者にとってどちらに転んでもなにかしら大変ですし、常にプレッシャーもあります。この大変なことが目に見えているから仕組みを構築することをためらう、経営者が社員に求めることをはっきり言えないということも無きにしも非ずです。
しかしどこかで踏み込まなければいつまでも同じ愚痴を言い続けなければいけません。待っていればいつか社員がわかってくれる、というその「いつか」は来ません。逆に社員はそのうやむやな状態をいつまでも待ってはくれません。
評価制度・給与体系という大掛かりな仕組みづくりも必要ですが、まずは社長の脳みその中を社員にわかってもらうことが必要ではないでしょうか。
社長が社員に何を求めているかわからない状態、あるいは求めていることは明確なのに社員には伝えていない状態、この状態では常にできない社員扱いになってしまいます。社員はがんばる方向がわかりませんし、いくらががんばっても社長の頭の中で基準が「勝手に」上げ下げされるからです。
社長は、他の人が考えも及ばないことを、自分で考えて自分の意志で行動してきた人です。その発想、意志の強さ、行動力はホントに尊敬します。
しかし、だれにも社長の頭の中身はわかりません。どんなに良いことを考えていても、人に伝わっていなければ残念ながら社長が「勝手に」やりはじめた・・・という風にしか伝わらないのです。
まずは社長の想い、ビジョンを公開しましょう。そしてそれを実現するために具体的なアクションを明確にしましょう。思いやビジョンといってもそんな壮大なことを語る必要はありません。社員はあまりにも届きそうにない目標にやる気スイッチは入りませんし、これまで見てきた社長とビジョンを語っている社長のイメージに乖離があれば、「社長がなんか変なこと言いだした」ということになりかねません。
社員は、社長の想いやビジョンの実行・実現に協力してくれる大事な存在で、縁あって偶然出会った貴重な存在です。隠し事は無しにしましょう。
そして、その異業種交流会で、経営者同士の愚痴のレベル、解決策のレベルに差を感じたら、参加する価値は激減です。ずっと同じ愚痴を言っている経営者が居たらなおさらです。社長の変化に社員は気づきます。社長に影響を与える居場所も考えましょう。
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