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2024.09.24

3.仕組みの構築の定義

前回のコラムで、「現場は社員だけでも回る仕組みの構築」という説明を簡単にして終わりましたが、「仕組み」と聞いてみなさんはどの様なものを想像されるでしょうか?

仕組みで集客、仕組みでコスト削減、仕組みで売り上げアップ・・・などなどたくさんのフレーズを見かけます。

私は「仕組み」の話をすると、いつも美容業の方との話を思い出します。
数年前の話ですが、美容室を経営するオーナーさんと話をする機会があり、美容業と製造業、全く異なる業界同士の話で「へぇ〜、なるほどぉ〜」とお互いに知らないことを知ることができたり、違う業界でも活かせるかもと思うことを得られたり、話はとても盛り上がりました。

しかし、1つだけ理解に苦しむ、伝わらなかったことがありました。
それが「仕組み」というワードでした。

美容師オーナー曰く、
「製造業は図面通りにずっと同じものを作るから仕組みを作るのは簡単だと思うけど、美容師は毎回違う人の髪を切り、美容師一人一人の技術も個性も違うので仕組み通りにしろと言われてもできない」 というものでした。
それまで美容業と製造業の意外な共通点で共感していたので、理解してもらえるだろうと思っていたのですが、「仕組み」の話になった途端話はスーンとトーンダウンしました。

私が感じた共通点とは、美容師と製造業の作業者は同じ「職人」ということ。
わざわざ説明はしませんでしたが、製造する中で、材料や道具が変われば曲がり方、削れ方など、全て同じ様になってくれるわけではなく、図面寸法に収まる様に職人(作業者)がそれらの声を聞きながら少しずつ調整しています。
美容師さんがお客さんの髪の毛に向かい合っているのと全く同じだと思いませんか?

では、「仕組み」とは何なのか? まずは一般的にどう言われているのか、ChatGPTに聞いてみました。(最近、全然ググらなくなりました)

「仕組みとは、物事が成り立つための基本的な構造やプロセスを指す言葉」

とありました。 経営が成り立つための基本的な構造やプロセス? 日本語的にはわかりますが、経営する場面に置き換えたときにちょっとイメージが湧きにくいかと。

製造業の方だと設計における「アドホック設計」「モジュール設計」に置き換えるとイメージしやすいと思いますので、まずはこの二つの説明から。

【アドホック設計】とは、
部品の構成がバラバラで、どんなものが作りたいのかというゴールだけがわかっている人が、この配線はこの部品をつなげればいい、この部品はちょっと削れば嵌まるからこれを使えばいい、という感じで、ベテラン職人の経験と勘で組み合わせていく方法

【モジュール設計】とは、
部品がある程度まとめられて構成されていて、このまとまりから適切なものを選んで組み合わせていく方法で、構成する部品やアッセンブリが標準化されていて仕様に合わせて組み合わせていくだけというもの

これを工場経営での仕組み構築とどう結び付けていくのか。この強引といえるかもしれない考え方、思考がとても重要なので、具体的にしていきます。

アドホック設計的な経営をしている生産現場はどんな状態でしょうか?

前提条件として、生産現場では、製品図面を見ればどんな材料や部品を使用し、どれとどれをどの位置で組み合わせ、どことどこを配線すれば完成するのかはわかります。しかし、通常図面では製品完成状態の仕様は記載されていますが、完成までの具体的なプロセスまで書かれていません。生産のプロセスは生産をする現場で決定されます。ですので、図面を見ればどのような設備を使用してどのような順番で加工すればよいのかわかる社員がいます。この社員の判断や仕事の仕方により、生産プロセスは大きく変わります。

生産ラインは、生産を管理しているベテラン社員がその時の状況を判断して構成し、材料在庫の量や作業者の作業スピード、ライン上の仕掛品の量などを見て、特に計算式などなくこれまでの経験と勘で今日のスケジュールを設定し、工程ごとに都度指示を出している。終業時に何個完成したのかよくわからないけど、翌日に迫っていた納期日には、図面通りに作られた完成品が必要数量揃っている・・・。

このように生産上のルールも定められておらず、ベテラン社員の経験と勘で生産している状況は、アドホック設計とよく似ています。

ちょっと悪く書き過ぎたかもしれませんが、この方法、見方を変えると実はどんな状況にも臨機応変に、柔軟に、迅速に対応できるというメリットもあります。

しかしお分かりかと思いますが、メリット以上に多くのデメリットがあり、行き当たりばったりの生産を臨機応変と言っているだけです。また、標準化することも再利用することも難しく、いちばんのデメリットは、生産を管理しているそのベテラン社員がいないと機能しない、ということです。退職イコール事業継続ができなくなることを意味します。

一方、モジュール設計的な工場経営をするとどのような生産現場になるでしょうか?

受注があり、製品図面が届き、管理者はそれを見て生産ラインを構成し、生産能力データや納期情報に基づき生産スケジュールを作成し、生産工程それぞれで行われる作業手順についてマニュアル化し、製品品質上クリアしておかなければならないポイントを明確にして、生産に取り掛かる準備をしています。
生産に携わる作業者はこれらの事前情報をあらかじめ確認してから作業に入ります。
生産中は生産実績データを取得することで進捗確認ができ、作業者の日報を確認することで作業工数や作業中の情報を確認することができ、次に生産があったときの参考データにすることができます。

このような状況を作ることができれば、どのような製品を受注しても、管理者が準備する内容、必要なマニュアルの作成、作業者の準備等は同じことを繰り返すだけでよく、問題があれば修正することが可能です。

このように作業が統一されていれば、PCや機械に任せておけばいいような単純な繰り返し作業はIT化、機械化(一般的に言う自動化)することができ、さらに生産性を向上させることができます。

また、仕組み構築を行うことのいちばんのメリットは「社員が自主的に動いて業務を回すことができる」という点にあり、実現できれば、現場は社員に任せて社長は次のビジネス展開に専念することが可能になります。

このようにモジュール設計的な工場経営ができるように仕組みを構築することを、私は「工場経営の自動化」と呼んでいます。

良いことばかりのように見えます。「工場経営の自動化ができ、それが定着してくれば」実際に良いことばかりです。
しかし、それを良いことと思ってもらえなかったため、前述の様に美容師オーナーさんとは話が合わなくなったのではないかと考えています。

これはこれまでの工場長的な立場の人との関わりやその方の仕事ぶりを見て感じることですが、腕の良い職人のまま店長や工場長になっても、「仕組み」という考え方は理解できないかもしれないと思うことがあります。

職人感覚のままだと、自分で自分の世界を作って仕事に集中する、仕事は腕の良い職人の仕事をみて自分のものにする、というような感覚を持つため、全体として職場環境を作るという感覚が伝わりません。すべては個人の努力次第です。
上司らしさがあるとすれば、自らが率先して腕を磨き、たくさんの仕事をこなし、結果を出して信頼される上司となり、論理的な説明よりも、気合いや根性、やる気やモチベーションなどで上司と部下の人間関係を構築する「場の雰囲気作り」をする、ということでしょうか。仕組み構築とは異なるものです。

この立場になれば、現場の美容師や現場の作業者が「安心して仕事に集中できる環境」を作ることが仕事になってくると思います。上司としての人間性でその様な環境づくりをするのか、仕組みを構築してそれを目指すのか、もちろん実際にはこの二者択一だけではありませんが、どのような考え方をした上司がいるかで「やり方」は大きく変わります。

ということは、仕組みを構築=工場経営の自動化を目指すには、それを構築する立場の人の考え方から変えなければ実現しないのかもしれません。
あるいは、わかってもらえないだろうと面倒くさがって説明しなかった内容を説明していたら、「そういうやり方もあるのか!」と目から鱗になり考え方が180度変わっていたのかもしれません。

あの時、言っておいた方が良かったのかなぁ〜。
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