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69 経営者が考えるべきAI・ITツールの探し方

社長がいなくても回る工場は、
目的に合った道具を探す

社長がいないと止まる工場は、
魔法の道具を探す

 


AIの展示会が「つまらない」理由

先日、AIの展示会に行かれた方がこう言っていました。

「全然つまらん、1時間もしないうちに出たよ」

その感想を聞いて、私はすぐに腑に落ちました。
展示会というのは昔からそういうものだと思っていたからです。
ほとんどの場合、目を見張るような革新的なものはなく、あのシステムにこの機能が追加された、PC上でやっていたものがクラウドサービスになった——ユーザー側からすれば、数年前の車のデザインが、最近はやりのものに変わった?というものを紹介されたというだけで、それほどインパクトのあるものはありません。

2023年の冬に突然登場した生成AIですが、それは今までとは次元が違う本物の激震でした。
それなのに、展示会になると「ただそれができるだけ?」「○○システムがAIでやってくれるからなに?」「それもう自分でやってる」という印象しか残らないんです。

 

データが取れればこんなことがわかる、AIでこんなことができる、こんな操作まで自動でやってくれる——それは道具の紹介であって、経営の話ではありません。あとは社長がいいように使ってください、という紹介です。

車は移動手段という本来の目的は変わりません。電車なのか飛行機なのか船なのか、そしてどこに行くのか、何が移動するのか——目的地が先にあって、移動の目的もあって、そのあと初めて手段の話になります。どれだけ高性能な車を渡されても、どんなにデザインがよい車を渡されても、どこに行くか、何の移動かが決まっていなければ、「良い車」は見つかりません。

AIも同じです。

10年前に経験した失敗

10年ほど前私は、自分でアプリを開発して展示会に出展したことがあります。

そのアプリの目的は明確でした。「社長にも社員にも負担なく、製造原価の中で経営改善に最も効果のある部分をリアルタイムで把握すること」。
製造原価の削減が目的ではありません。会社の状況が一番よくわかる数字を、現場にいながら確認できるようにすること。その目的があったから、クラウドにたどり着き、スマホ対応にたどり着きました。アプリの仕様は、全て、目的から逆算した結果でした。

そのため、開発費も最小にして、不要な機能はすべて省き、PCを触るのもイヤという事務のおばさんでも受け入れてくれるようなデザインにしました。

オンプレミスで開発すれば、バージョンアップのための更新はどうするのか、作業者はわざわざPCまで行かなければ入力できない。
クラウドにすれば、端末を選ばず、常に最新の状態で使える。「社長にも社員にも負担なく」という目的から考えれば、答えは自然に出てきました。

その結果、展示会では、あの機能はないの?こんなことはできないのか?という質問攻め。

また、ITベンダーからすれば、クラウドサービスになってしまったら、システムとセットでサーバーを売るビジネスモデルが崩れる。顧客目線ではなく、自社のビジネスモデルを守る方向に向いていたのでしょう。

しかし当時の私には、その指摘がとても辛く苦しいものでした。やっぱり自分が考えたようなものはそんなものか、IT業界ではこういうものは通じないのかと。

びっくりするほど反応はなかった

さらに、展示会でたくさん名刺交換したにもかかわらず、びっくりするほど反応は薄いものでした。

データがクラウドにあるのがダメ、セキュリティが心配、ネットが必要だと工事からしないといけない、月額費用が固定のランニングコストになる——そういう反応ばかりでした。

データがクラウドにあるのが嫌なら、メールだってできません。自社の外のメールサーバーにあります。
AWSのエンジニアと自社の情シスと、どちらがセキュリティの知識や技術があり、Amazonと自社でどちらがセキュリティにお金をかけられるでしょうか。
5年も使えば相当古いといえるPCに対し、高いシステムを購入して何年も減価償却し、償却が終わったころにはレガシーとなるこのシステムを、いつまでも使わなければならない構造から抜けられない。

市場は、まだそこにありませんでした。

そして、がっかりした展示会の半年後、情報収集に来ていたITベンダーが、模造品かと思うほどそっくりなアプリを出展していました。
腹立たしさとがっかりと、しかし同時に「IT企業には思いつかない発想だったのか」という確信が、複雑に頭の中をぐるぐる回っていたのを覚えています。

目的が先、道具は後

AIの展示会がつまらない理由は、道具の紹介で終わっているからです。
そしてそれを見ている工場経営者側にも、「何のためにAIを使うのか」が決まっていないことが多く、「この道具があったらどんなことができるかな?」という道具を入口とした思考になりがちです。
どれだけ優れた道具でも、目的のない工場に渡しても意味がありません。

工場の自動稼ぎ装置化も、同じ設計思想から生まれています。
社長は現場に縛られず、本当は何をしなければいけないのか、社長がホントにしたいことは何なのか?それが社長の工場経営の目的に直結しています。それがわかれば、どんな改革を行うべきか、どんな制度が必要なのか、そういうところまで見えてきます。

その目的から逆算して、初めて道具の話になるのです。

いつまでも現場で作業をしていたいのでしょうか、現場で作業しつつも、将来誰かに後継者になってほしい、M&Aなどでだれかに引き継いでほしい、そう思っているのなら、それはとても大きな目的です。
工場の自動稼ぎ装置化は、とても有効な手段ですし、そのためにAIが使われることは必然です。