社長がいなくても回る工場は
カイゼンがお金になる
社長がいないと止まる工場は
カイゼンという無償サービスを提供する
ある町工場のM社長に相談を受けた時のはなしです。
M社長の工場では、世の中がDXとか働き方改革とか言い始める前から、積極的にIT導入を進め、工場内の業務の効率化を行ってきました。その結果、生産性を向上により、社員が5年前の3割減となっている今でも、同等の生産数を維持することができており、売り上げを減らさず利益を上昇させている工場です。
さぞかし大掛かりなシステムが導入されているであろうとイメージしてしまいますが、20人も満たない工場ですので、何百人といる規模の工場のIT化より、明らかにシステムの機能も性能も劣ります。
しかし、現場に必要な機能を上手に取り入れ、無駄な機能を排除し、導入して終わりの工場が多い中、この現場では、多くの機能がしっかり運用されています。
そんな中、M社長から相談を受けました。
「必要だと思ってIT導入しているんだけど、最近、なんだか、”だれのための”システム開発なのかわからなくなってきた」
と言います。
ニュースでも取り上げられやすい事例で話をしますと、
「取引先から依頼された製造に使用した金型の管理費」
「下請け工場に依頼した製造に使用した金型の管理費」
についての話とよく似た話なんです。
下請け工場からすれば、その金型を使用した生産があるから保管することができます。
しかし、その生産がない時期も当然あります。
そんな時期に取引先から、
「保守部品対応のため◯年間は生産がなくても保管しておかなければいけない」
「◯か月後に発注する予定だからそれまで保管しておいて」
と言われてしまうと、下請け企業からすれば保管せざるを得ません。
真面目な、意識の高い下請け企業であれば、仕事がない期間でもしっかりメンテナンスを行い、保管場所の環境の管理も行い、そしてその取り組みを取引先にアピールします。
それは、言わずもがな、取引先からの受注を継続、追加を目的としているからです。
そしてこれにかかる費用も、受注があれば回収できる、そう見込んでの取り組みです。保管場所の拡張や設備導入、メンテナンスを行う技術者の育成など、次の仕事を取るための先行投資でもあります。
一方で、取引先はというと、
その意図をきちんと汲んでくれているでしょうか・・・。
金型がある、倉庫がある、錆び取り作業している、など目に見えてわかりやすいものには、ある程度経費計算もしやすく、下請け側も見積もりが出しやすいでしょうし、発注者側にも伝わりやすいでしょう。言い方を変えれば、受け入れざるを得ないものとなりやすい、と言えるのではないでしょうか。
一方で、M社長が行っているシステム開発はどうでしょうか。眼に見えるものといえば、PCとUIのみです。システム開発をしたこともない人から見れば、たったこれだけの入力する画面なのだから、ピッて押したら、パッとできるんじゃない?って思う人も実際に多くいます。
世の中に、無料のスマホアプリが出回っているからそのように思うのでしょう。
しかしM社長の工場は、単にITツールを導入しただけではありません。
属人化した仕事を標準化し、人が減っても同じ生産量を維持できる仕組みを作りました。
現場が使わないシステムは意味がないと考え、作業者が使いやすい仕組みへ改良を繰り返しました。
その結果、5年前より社員数が3割減った今も、同等の生産量と利益を維持しています。
私は多くの工場を見てきましたが、ここまで運用できている工場は決して多くありません。これを実現するには、多くの知識や経験を必要とします。ITに詳しいというだけでできるものではありません。
そしてM社長の悩みはここからです。
いくらシステム開発をしても価格は上がらない
カイゼンしても得られる利益には限界がある
しかし仕事をもらい続けるためには、それを継続し、レベルを上げていかないければならない、
と受け入れてはいますが、
ところが、その改善に対して価格が上がることはありませんでした。
むしろ取引先から要求される管理は年々増えていきます。
データ提出
在庫管理
品質管理
納期管理
要求に応えるたびに、システムはさらに進化していきました。
しかし、そのための費用が認められることはありません。
そして、M社長はこう思ったそうです。
「いったい、誰のための改善なのか」
「誰のためのシステム導入なのか」
気が付けば、そのシステムは自社の利益のためというより、取引先の要求を満たすための、取引先仕様のシステムになっていっていることに、気づいてしまったのです。
特筆すべき素晴らしいカイゼンであることは間違い無いのですが、これだけの手間暇がかかっていることを、多くの取引先は知りません。
「カイゼン」という言葉に置き換えられてしまうだけで、
「御社が自主的に、自社の利益のために行っていることでしょ」
という言葉に変換されています。そしてそれは、
「御社が行っている自主的なカイゼンには費用は支払いません」
ということなのです。
「カイゼン」という企業努力には、全く値がつかないのです。
私は、これはこれまでの製造業で根付いてしまった悪い慣習だと考えています。
取引先にとっては、その製品を要求品質を満たして納品することは当然で、さらに改善をすれば利益が出るのだから得ではないか。
金型を保管する管理の効率化をするのは下請け企業の利益のためのカイゼン。
M社長が導入したシステムを取引先の業務改善に貢献していることも、M社長の利益のためのカイゼン。
カイゼンそのものは素晴らしいことです。しかし、その成果を利用するためにさらに次の改善を求め続けるのであればそれは話が別です。
私はそれは、「カイゼン」という言葉で正当化された「やりがい搾取」のようにしか見えません。
下請法が取適法になろうとも、このような解釈をされていれば、価格交渉も成立しません。
価格交渉の前に、まずは「自社の資産はなんなのか?」を考えなければいけません。
眼に見えるもの、見えないもの、どちらであろうとも、会社の資産は現金化できないと意味がないのです。
決して、「カイゼン」はしなくてもいい、やっただけ損をする、ということではありません。
競争力を維持するため、選ばれる会社になるため、社員が働きやすい職場を作るためにも、改善は続けなければなりません。
しかし、がんばるところを間違えてはいけません。
改善に力を注いだ結果、生まれた価値をどう対価に結びつけるのか。
社長はそれを考え抜かなければいけません。
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