
最近、多くの企業が「副業」を認め始めました。それにより、会社に勤めながらその収入以上に稼ぐ人も現れてきているとか。中にはそれをきっかけに本業のサラリーマンを卒業し独立、開業する人も少なくありません。
そのような方とお会いする機会があり、一つの疑問があったので聞いてみました。
質問「それだけの立派な企業に勤めていたら、サラリーマン収入だけでも十分ではないですか?」
回答「それが不安なんです。」
なんとも贅沢な悩みというか、そのような状況にならないと出てこない言葉だと思いました。
聞いてみると、『会社の看板で稼いでいるだけで、自分の力で稼いでいる実感がない』とのこと。
そして、自分は本当に役に立っているのか、それを満足するためには会社を離れ、企業の看板を下ろして素の状態で仕事をしてみたいと。
とても前向きで、勝負師というか、人生を全てそこに注力しようとしておられる感じがしました。
一方で、すでに創業し、経営をしておられる社長さんたちはどうでしょうか。
自分のやりたいことを謳歌している人もあれば、思うようにいかず資金が底をついたところでサラリーマンに戻ったり、事業はなんとかまわっているが身動きが取れない、などさまざまな状況を目にします。
どの経営者に聞いても、サラリーマンの方が楽、経営の仕事は大変だと言われることの方が圧倒的に多いにも関わらず、対照的にサラリーマンの方々は、経営者はたくさん給料を取っている、自分の好き勝手できるから羨ましいなど、とても社長さんたちから聞くことができないようなことをイメージしておられたりします。
だからというわけではないとは思いますが、サラリーマンの皆さんの創業の頃の思考はホントに前向きです。成功イメージだけがどんどん膨らみ、失敗してもなんとかなるというスタンスの方が多いように思います。
【社長はなぜ新しいことができないのか】
サラリーマンの皆さんが、独立開業しようとする方が増えている一方で、すでに経営者をやっているみなさんは、今の事業を回すので精一杯、新しいことをする資金がない、人がいない、時間がない、という状況で、なかなか新しい経営の柱を作ることができないでいる会社は多くあります。
工場経営者であれば、「何が起こるかわからないので現場から離れられない」「自分がいないと現場が回らない」このような状況の社長が多く、当然、この状態では新しい事業どころではありません。
朝から生産の段取りをして作業者と機械を動かし、トラックが来ればフォークリフトを動かし、現場を走り回っているうちに1日が終わり、気づけば何か月、何年も営業も新規開拓もしていない。
人材不足で募集を出しても面接することさえ難しい、せっかく入ってくれた社員も長く続かず、社員に強く言えばパワハラと言われ、どう接したらいいのかわからない。
機械は動かなくなることがあっても愚痴も文句も言いません。自分次第で動くなんとも言えない可愛いもの。機械に頭を突っ込んで修理している方が安心だったりもします。
一方で、生産性を上げようとして最新設備の購入のために融資をしてもらった金融機関からは、売り上げ自体は上がっているけど、今の収益状況のままでは・・・と釘も刺されたりしています。しかし本音は、今の事業でいっぱいなのに、新規事業で次の柱を作るなんて無理・・・。
そんな状況、いつかは変えなければと思いながらも、どんどん時間が過ぎていきます。
【このままだと】
社長が機械に頭を突っ込んでいる状況で、取引先と話ができるはずがありません。生産性向上のために導入した設備が、ホントに生産性向上に貢献し利益率向上につながっているのか、数字を見ることもできません。
この作業は、社員に任せることはできません。経理担当者がいたとしても、現金の動きは見えているかもしれませんが、機械を導入したからキャッシュフローに変化があるか?という視点で見ることができる担当者は、よほど経営のことを知っていない限りいないと考えた方がいいでしょう。
社長が現場にいる間、社長がやるべき仕事が全て止まり、それと同時に会社の将来への変化も止まるのです。
新規顧客開拓ゼロ、既存顧客への提案ゼロ、新規事業構築のためのアクションゼロ・・・。この状態でどのようにして将来の売り上げを確保しようとするのでしょうか。
さらに問題は、社長が現場にいる間、作業者がしている作業以外はすべて社長の仕事、という認識を無意識のうちに刷り込んでいくことになるのです。
社員に育ってほしい、自ら考えて動いてほしいと言いながらも、その機会を潰しているのは社長なのです。
このままでは、将来の仕事確保は難しい、今いる社員も疲弊し去っていく。設備投資の返済だけが残ったまま、少ない売上と少ない社員で利益を出し返済していくことは、さらに疲弊し生産性は落ち、収益性はどんどん下がるばかり。
【動けない理由もある】
サラリーマンは毎月の給与が保障されていますし、仕事に失敗しても責任を取るのは社長です。一方で経営者は、その全てが自分の責任です。失敗すれば社員に給与も払えません。自分の仕事も失います。それだけではありません。住むところも何もかも失うこともあるのです。今は少なくなってきたかもしれませんが、自分の人生を終わらせる人だっていたんです。
今のままではダメだと思っていても、今新しいことを始めて、そのことにより終わりが早くきてしまうのではないか、という不安が襲うことだってあるのです。
単に、何をすればいいかわからない、融資してもらえれば何かができるとか、そう簡単な話ではありません。
現場を社員に任せることも同じです。今まで自分が回してきていたからなんとかなっていた会社です。社員に任せれば自分の思うようにはなりません。効率は落ちるでしょうし、失敗もするでしょうし、それによって取引先から仕事がなくなってしまうかもしれません。そのような恐怖を簡単に、今のままではダメですよと一蹴してしまうのは少し筋違いなのです。
【最初の一歩はこれだけでいい】
週に1時間だけ「現場を離れる時間」を作る。一つだけ、誰かに任せてみる。など最初は小さなところからでもいいでしょう。やってみることが大事です。
しかし、誰でもわかることと思いますが、知識もノウハウもなくとりあえずやってみるということは、失敗をしにいっているようなものです。世の中で前例のないことを始めるのであればそれは仕方がないでしょう。参考にするものがないのですから。しかし、これには確実にノウハウがあります。
まずはそれを知ることが必要です。
いきなり、突然現場から離れて営業に出てしまっては、社員は何も理解しませんので、「社長、機械止まってますよ」と言われてしまいますよ。
社員に任せるにも順番があります。
現場を社員に任せ、社長が現場から離れるまでのストーリーがイメージできますか?

