現場は社員に任せて、社長は新商品開発、新規事業創出のために時間を使いたい。
工場の経営者にとって、現在の事業を将来的にどういう方向に持って行くのかを考える中で、既存工場の拡大をするにせよ、工場の規模はそこそこに、今まで培った経験を活かして新たな事業を立ち上げるにせよ、今の事業には全く関係なくてもとにかく自分がやりたい事業をはじめたいと思った場合でも、社長が工場の外に出て活動する必要があります。
社長が現場に入って社員に指示を出しているままでは、到底そのような状況にたどり着くことはありません。
しかし、なかなか離れることができない社長がいるのも事実です。
最近、ある社長からとても衝撃的な言葉を聞いてしまいました。
社長「ホントは社員に任せて自分たちでできるようになってもらうのがいいと思ってるんだけど、自分の思うようにならないのが気になって仕方がない。だからすぐに口や手を出してしまう(手を出すって暴力ではありませんよ)」
さらに続けて、
社長「やらせてみても、そのまま進めると失敗するよって思って見ているとやっぱり失敗する。だから自分がやらないといけない」
言葉だけを聞けば、他でも聞いたことのあるようなものかもしれません。
現場で活躍する社長 御年82歳
しかしこの社長、御年82歳。
そして社員も高齢化していると言っておられましたが、社歴20年以上のベテランばかり。若くても50歳代。
この状況でも任せられないという社長も社長ですが、それを言わせてしまう社員も社員です。
完全に社長に依存してしまっているのが手に取るようにわかります。
社長「ずっと教えてこなかったから」
この言葉の後に続くのは、「だから自分がやらなければ仕方がない」。
部下の教育を怠ってきたことを反省している風な言葉ですが、今でも自ら行っていることを正当化しているようにさえ聞こえてしまったり、最後まで自分が面倒見なければならないと覚悟している風にも聞こえたり、なんともどうにもならない状況が伺えます。
さらにこれは私の勘ではありますが、高校を卒業して以来、ずっと職人でやってこられた社長です。自分からそれを取られたら生き甲斐がなくなる、現場で倒れるなら本望と思っておられるようにも感じてしまいます。
OJTの進め方、教え方
これまで、任せようとしなかったわけではないのでしょう。現に、やらせてみたけど失敗するから結局自分が手を出しているわけです。
自分の仕事を教えるにあたって、どこまで口を出し説明が必要なのか、どこまで手を出さずにやらせておいてもいいのか、どうなったら口や手を出し止めなければならないのか、それがOJTというものでしょう。
申し上げにくいことではありますが、この社長にはそのような「教え方」のノウハウが一切ありそうにありません。
現場の「作業」であれば確かに、社長がやる姿を見て、社員が自ら手を動かし、困ったことがあっても自分でなんとか完結させてその中で自分の中にノウハウが溜まっていく、ということはあるでしょう。
しかし、現場の人の割り振りや生産の段取りをするような業務の場合(あえて管理業務とは言いません)、それをするためには数々の情報を集め、その情報から判断基準を導き出し、状況を踏まえて判断を下す、という順序があります。
この順序や判断基準を考えることもなく段取りをしている状態は、まさに「感覚的に」「直感的に」段取りをしているということであり、それではノウハウにはならず、社員に教えることも社員がやってみることもできません。
もしも社長に何かあったら・・・
考えたくはありませんが、もし社長に何かがあって社員だけでやらなければならなくなった時、社長から見れば「私でもやってこれたんだから、考えればできる」と思われるかもしれませんが、実際にそのような状況になってしまいその状況下に置かれた社員さんの苦悩は計り知れません。
社長は長年、この歳になるまで何十年もやってきたわけです。しかし社員さんはこの歳になるまでやったことがないのです。
さらにひどいことに、この社員さんたちは長年教えてもらえなかったという簡単なことではなく、「社長が言ったことをやる」というのが自分の仕事、という風に教育されてしまっているのです。したがって、仮に社長以外の人が正しい指示を出していたとしても、「社長に確認してみます」という返事が返ってくるに違いありません。
こうなってしまうと、ホントに社長がいなくなることでしか変われないのかもしれません。
そのように急に投げ出された状態になった社員さんの困惑状態は容易に想像がつきますが、その中に一人でも、「この苦労が、自分の成長に役に立つはず、将来ネタになるはず」と前向きに振り切ってくれる人が現れることを願います。
ホントにそのような状態になってしまう前に、社長の脳みそは可視化し、業務は社長に聞かなくてもできるよう仕組みで回るようにしておくことが重要です。
今社長が行っている判断は、どこかに基準がありますか?
そして誰もがわかる状態になっていますか?
コラム