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90.現場を知らない社長は、目立つ成果にだまされる

社長がいなくても回る工場は、
現場の強さの所在を知っている
社長がいないと止まる工場は、
目立つ成果に騙される

ある電子部品組み立て工場のY取締役との話です。

「最近、社内で、品質トラブルになりそうな目立つ事例がよく発生するようになったんですよね。それを現場リーダーをやってくれているベテランさんが見つけて対応してくれて、彼が対応してくれなかったら大問題に発展していたかもって思ったら・・・。ホントにベテランの経験値って大事ですね!」

最近、仕事量がとても増えたらしく、そして、新しい生産ラインも立ち上がり、さらにさらに、なかなか採用ができず人員もギリギリでやっているとのこと。
そんな状況で、工場内のことは知らないことはないくらいの大ベテランは、何か問題があればサッと駆けつけ、状況を確認し、周り巻き込み指示を出し、トラブルを収束させていくとのこと。
どんなにレベルの高い生産技術を持っていても、危機的状況において、咄嗟にこの動きが取れるかどうか、は全く別物です。

こういう人がいるかどうかで、社内の動きも、雰囲気もまるで違います。
リーダーになるための研修や管理職向けの研修を受ければできるようになるかといえばそういうものではありませんし、そのような上司について仕事をしていたからその立場になったらそれができるというものでもありません。パーソナリティに依存する部分が相当に大きく、採用活動で狙ってゲットできるような人材でもありません。

ですから、非常に貴重な人材であることは間違い無いのですが、だからこの工場は安泰、と言えるでしょうか?

その問いになった途端、話は別物に変わるはずです。

 

現状では、この社員が対応してくれるから安心ということは一定程度言えると思いますが、果たしてこれが工場がある限り大丈夫とは当然言えません。一人の社員の属人的な能力に依存する限り、この状況はその社員がいなくなった途端に破綻します。

本当の問題は、トラブルが発生するような現場であること、トラブルが発生するまで誰も気がつくことができないということです。

ベテラン社員も対応は素晴らしいのですが、発生するまで何もできていないということが言えてしまいます。

そこで、Y取締役にこのような質問をしてみました。

「トラブルが発生するところと発生しないところがありませんか?」

Y取締役は、しばらく考え、
「確かに、あのフロアの生産ラインではそのようなことが起こっていない」と。

この状況から考えなければならないのは、
「あのフロア」の生産ラインが
・トラブルが起こらないよう整備された、安定した生産ラインなのか、
・トラブルが起こる前に誰かが対応、処理、行動しているおかげで目に見えるトラブルに発展していないのか、
この2点のどちらかです。

この2点をどのように見分けるか、どのように目に見えるトラブルに発展させないか、という現場改善的な話はここではしません。それより重要な話があります。

みなさんが経営する現場には、こんな人がいないでしょうか。

毎朝少し早く出勤して始業前にしっかり準備をし、
今日一日何をするかを確認し、
関係する人たちの仕事内容も把握し、
足りないものは必ず補充し、
気付いたゴミはすぐに拾い、
定位置から傾いてズレているものがあれば修正し、
ここにモノが置いてあったら、誰かの手が当たって製品に混入してしまうかもしれないので避けておく、
元気がなさそうな人には声をかけ、
自分の体調管理もしっかりする。

などなど、言い出せばキリがありませんが、人として、社会人として当たり前のことが日々少しずつ確実に行われているものです。
そういう人ほど、ちょっとした異常に気付き、目に見えるトラブルに発展するかもしれない芽を積んでいます。

しかし、このような人のこのような行動は、人事評価で評価されるでしょうか?

多くの場合、「当たり前のこと」として片付けられ、評価もされません。

そして、冒頭のベテラン社員のように、大きなトラブルに発展してしまったものに対して対応できた社員は、その対応力を高く評価され、必要な人材として崇められ続けるのです。

いくらAIが発達し、使いこなせるようになったとして、さまざまな現場の状況を把握することができるようになったり、AIがそれを見つけてくれるようになったとしても、現場のアナログ的な部分は、現状、この先何年もAIに任せられるようになることはないでしょう。
人間が力を発揮しなければいけない部分です。

ひとつひとつは、とても小さなことで、取り立てて評価されるものではないかもしれませんが、目立つ行動ができた人だけが評価されるような仕組みになっているとしたら、いつまで経っても、「問題を発生させない」という状況を作ることはできません。

では、評価制度に反映させれば良いのか?
という結論に向かいそうですが、それが簡単にはできません。

現場にいる人たちも、実は、
「あの人が普段からこのようなことをやってくれているからトラブルが起こらない」
とは感じていません。
当たり前のことだと思っているからであり、さらにそれを誰かがやってくれているとさえ思ってもいないことで、「あの人」はそれを誰かに自慢することはありませんし、評価してもらおうとも思っていません。
中には、「あの人」何やっているかわからない。と中傷する人さえ出てくるものなのです。
工場ですから、仕事は「生産すること」だからです。
人として問題があろうがなかろうが、売上は作ったものが売れた時だけだからです。
それに直結することに直接関わっていなければ、仕事をしてないとさえ思われてしまう恐れもあるのです。

ですから、現場からも管理者からも、社長のところまで「あの人」のやってくれていることが届くこともありません。
そして、評価制度で解決しようとすると、「評価されるからやる」「評価されないことはやらない」という、まったく別の問題を作ってしまう可能性さえあります。

誰かがやってくれている間は、その存在にすら気付きません。

わかるのは、「あの人」が辞めた時です。

 

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