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2025.11.25

52.せっかく導入したIoTツールが使われていない工場の、見えない問題




機能しなかったIoT

数年前からDX化が必要だと良く言われるようになりました。しかし、システムを導入しただけで終わっている工場が多いのも事実です。
つい先日も、その象徴と言えるような場面がありました。

社長「最近、君が作ってくれたIoTツールの利用状況はどう?現場の社員は使ってくれてるかい?」
若手社員A(以下Aさん)「・・・。」
社長「やっぱりか。上司はなんと?」
Aさん「上司も使っていません。最近はアプリさえ立ち上がっていないこともあります。」
社長「・・・!!!。そういうデータが見ることができると生産効率を上げるための改善の材料になる。あったらいいなーと言っていたのは、その上司からだったよね?」
Aさん「はい・・・。」

現場改善の取り組みの一つとして、就業時間中の設備稼働時間のアップをテーマし、光センサーを設備の運転ライトに取り付け、そのON/OFFを検知して、設備の運転時間、停止時間を把握し、停止時間が長いものについては何らかの改善をしようという取り組みを行っていました。
半年前に始められたこの取り組み。上司からも報告があり、社長は、AさんをIoTツール導入の時間確保の指示も行いました。

そして2週間程度で出来上がったものを見て、社長も上司も「立派なものができた!これで進めよう!」とGoサインが出たのです。
しかし、フタを開けてみれば、前述のような状況。
データが収集されていませんので、当然、設備停止時間削減の改善も進んでいません。このプロジェクトを進めることは上司の責任で行わなければいけません。放置している上司に対し怒りを覚えたのは当然ですが、それ以上に、せっかく忙しい中、時間を割いて取り組んでくれたAさんを思うとかわいそうで、上司をプロジェクトのリーダーにしたこと、若者のがんばりを放置するような上司にしてしまったこと、自分は今までそんなことを教えてきただろうか・・・などなど、怒りを通り越し、切ない思いが込み上げてきました。

このことを上司に問い詰めても、「生産の方が忙しくて・・・」とか「〇〇の作業が間に合わないので・・・」など、その場の言い逃れや言い訳をするだけなのは目に見えています。
社長はわかっています。本当の理由はそんなことではありません。

IoTが使われなくなった理由

そういうツールが欲しい、そのツールで取得できたデータを使ったら、こんなことができそう。そのように切り出したのは上司の方です。
Aさんは、まだ入社2年目。ITには詳しいので、データの取得方法、表示方法など、ツールの使い方については難なくできるのですが、そのデータが現場でどのように使われるのか、どのような効果があるのか、そのような部分までは知識も経験もありません。そのため、上司に言われた通りにツールの制作、導入をすることしかできませんでした。
しかし、製造業の経験、いや社会人としての仕事の経験そのものが不足しているのですから仕方がありません。
当然ですが、その経験は上司が補うべきです。
「データを見ることができたら、〇〇のようなことができるかもしれない」「△△のようなことが起こったら、データはこのようになっているかもしれない」ーーーこのような推測ができるのは、やはり経験が必要です。そして現場で実際に困っていなければ、そのような推測さえ浮かんでこないことも多くあります。

仮説を立て、それを実証するデータを収集して分析、検証することで、効果のある改善を行うことができるのです。
したがって、上司の仕事は、仮説を立て、収集されたデータを分析し、良い改善結果が出る道筋を立て、その進捗を確認することです。
今回、せっかく製作したIoTツールが使われなくなったのは、仮説ではなく「漠然とした期待」でツールを作らせ、その後放置したということは言うまでもありません。


本当の問題は

IT化を進めなければいけないのは間違いありません。
しかし、データの入力作業が増えれば、現場の作業者にしてみれば、ただの作業の追加です。データが欲しいのは、そのデータを使って分析し次の手を打つ「管理者」だからです。今回の話であれば上司です。
改善がされ作業者の負担が減るのであれば作業者にもメリットはあるかもしれませんが、それでも、そんなことより面倒くさい作業がない方がいいという者も当然います。
これらのことを考えれば、IoTツールはその負担を一気に取り除く優秀なツールです。管理者がデータを取りたい場所に勝手にセンサーをつければデータが集まります。 作業者に負担をかけることもなく、入力漏れもなく、さらに人の入力作業では取得することのできないデータを取得することが可能になります。

そんなメリットがあるのに、なぜ今回のような問題が起きるのか。その本当の問題は、「管理者が困っているかどうか」ということに尽きるのです。


あった方がいいは、なくてもいい

現場の作業者は、上から降りてきた指示通りに作業が完了しなければ困るはずです。しかし、結果的に納期に間に合っている、出荷した製品に品質上の問題もない。帰りが夜中になるほどの残業もなければ休日出勤もないのであれば、設備の停止時間が増えようが通常生産と何も変わりません。

一方、上司はどうでしょうか。前述の作業者が困らないということを上司が聞けば、「コストを考えろ」と言いたくなるでしょう。
しかし、その上司こそコストを考えているでしょうか?
上司とはいえ、この会社で雇われて給料をもらっているという立場であることは、作業者と何ら変わりはありません。いくら管理者だ、上司だと言っても、相当な問題が起きない限り、上司が何らかの責任を金銭的に負わされることはないでしょう。

結論は、作業者も上司も「困っていない」のです。

もしかすると、あなたの工場でも、こんなことが起きていませんか?
・「あったらいい」という発想でツールを作る
・作ったら満足して、その後は放置
・上司が使わないので、現場も使わない
・データは溜まっているが、活用されていない


業務の根幹の構築

例えば、生産計画の数字が降りてこなければ、現場は途端に困るでしょう。オーダー情報がなければ何を作ればいいのかもわかりません。これはそのデータが業務上必要な情報として、業務の根幹に組み込まれているからです。
一方で、IoTツールで設備の停止時間を収集することはどうでしょうか。
そうです。このデータがなくても、生産できますし納品もできます。設備のトラブルがあったとしても検査を通過していれば、業務の根幹を揺るがすような大きな問題にはならないのです。

今回のIoTツール導入の取り組みでも、上司と社員、現場感覚とデータ、現状と理想、これらのつながり、関係性などを明確にし、工場の業務の仕組みに落とし込む必要があったのです。それがなかったため、Aさんがどんなに優秀なツールを作っても有効に活用されることがなかったのです。
したがって、IT化を進めることは必須ではありますが、システム導入がイコール業務の仕組みを変えるようなDX化にはならないのです。


あなたの工場には、使われていないデータがありませんか?
それによりやりがいを失っている社員はいませんか?

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