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「この技能を習得しているのは、あのベテランのおじさんだけ」「ベテランのおじさんがいなくなると設備も生産も止まってしまう」このような状況が多くの工場で発生しているようです。その技能が、事業を支えているコア技術であれば問題はさらに大きくなります。
一方で、だれでもできそうな作業なのに、「このおじさんしかしていない」という状況になっていたり、「これは自分にしかできない」といって誰にも任せることをしなかったり、それが理由で属人化が進んでしまうことも多くの現場で存在しています。
この場合は、知恵や工夫が個人に蓄積されているというより、特定の社員が自分の都合で作業をしているという、組織的な行動から逸脱していることさえ起こり得ます。
どちらの問題も、「属人化」というひとつのワードでまとめられますが、様々な要素の原因が絡み合って発生してしまう問題であり、一言で片づけられるものではなく、持続可能な工場を作るためには避けては通れない最重要の経営課題です。
私自身も、工場を経営する中で、属人化の壁には何度もぶつかってきましたし、企業のコンサルティングを行う中でも様々なタイプの属人化による問題に向き合ってきました。
本記事では、実際に長年工場を経営し、複数企業のコンサルティングを行ってきた筆者の経験を踏まえて、製造業における属人化が引き起こす課題やその要因、具体的な属人化の解消方法や事例について解説いたします。
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製造業における属人化とは?
「属人化」とよく言われますが、ここで、どのような状態が属人化なのか定義しておきます。
様々な工場を回って思うのは、この定義があいまいであるにもかかわらず、属人化対策の情報だけが飛び交っていて、その対策で本当に属人化問題を解決することができるのか、疑問に思う場面を多く見てきました。
属人化には、大きく分けて2つのタイプがあると考えています。
一つ目には、「業務や知識、判断が特定の個人に依存してしまっている」状態です。
具体的には、
その人にしかできない作業がある
その人しか知らない情報がある
その人の判断がないと進まない業務がある
というようなものです。
私自身、社長になったばかりの時は、私より10年以上社歴も年齢も上の工場長がいましたので、多くのことは工場長に聞かなければ物事を進めることができませんでした。
そしてあるとき、「工場長がいないとこの工場は止まる」ということに気付き、そしてさらに、この工場長が部下に任せていたことのすべてを把握しているわけではないので、この部下がいなくなっても工場が止まる恐れがあるということにも気付いたのです。
二つ目は、「特定の個人の頭の中にしか存在しない知識、判断基準、作業ノウハウによって業務が成り立っている」状態です。
○○さんに聞けばわかる
○○さんがいないと生産が止まる
工場長が判断しないと進まない
という状態です。
一つ目と二つ目、同じことを言っているようですが、大きな違いがあることに気が付いたでしょうか?
一つ目の属人化は、
「本当はその人でなくてもできるかもしれないのに、その人任せになっている」ということです。
とても簡単な作業でも、聞かなくてもわかる作業でも、それに関わってしまえば自分の作業が増えてしまいます。「それはその人に任せておけばよい」という、いわゆる無関心により発生する属人化です。
本来は「分業化」として機能すべきものが、悪い方向に向くと、このような属人化が起こるのです。組織が大きくなると、大企業病と言われるような状況が起こりますが、それに近いものです。
そして二つ目の属人化は、知識、判断基準、ノウハウなどを持っている本人が、「誰にも言わず抱え込んでいる状態」です。「自分がやった方が早い」「誰かに教えるほどでもない」「自分は自分で考えてやってきた。だから、他の人も自分で考えてやれ」のように、誰にも教えません。
この属人化の一番の弊害は、新入社員でもできるかもしれないことが、10年以上の経験がないとできないのではないかと思うくらい難しい仕事のように思われてしまうことです。そのため、OJTも進まず、多能工化も難しくなります。
この2つのタイプを理解せずに、一律に「マニュアルを作れ」「技能伝承しろ」と言っても、属人化は解消できません。それぞれのタイプに応じた対策が必要なのです。
※関連記事:製造業の課題を乗り越える解決策!現役経営者が提言する中小企業が取るべき実践的アプローチ
製造業における属人化が引き起こす問題
では、製造業において属人化は具体的にどのような問題点を引き起こすのでしょうか?
ここからは、属人化の問題点について詳しく解説していきます。
社員の体調や気分が品質に直結する
属人化により〇〇さん個人にその作業を任せなければならない状態ですから、生産性や品質のばらつきも、〇〇さんに依存する状況ということです。
但し、これは、大前提として仕事とはこうであってはならないというものでもあります。体調や気分の善し悪しに関わらず、仕事をするなら最低限のことは果たさなければいけません。
生産性や品質は、属人化が起こっていなくても、技術的に不足があれば起こり得ますし、その技術が工場が持ち合わせていないものなのか、一般的に考えられている物理的あるいは化学的な自然現象から考えてそのばらつきは仕方がないものなのか、これによりばらつきに対する考え方が大きく変わります。
また、作業をする社員個人、毎日同じ体調で同じ気分でいることを維持することは不可能でしょう。人間ですから、社員自身に様々なばらつきを持っています。これは仕方のないことです。
問題なのは、仕事が属人化しているために、体調や気分がすぐれない日であっても、この人だけに頼らなければならない、ということが問題です。
品質は技術的に維持されるべきです。設備性能通りの直行率でできるかどうか、設計された性能通りの製品になるかどうかが、その日の〇〇さんの社員個人の能力、体調や気分に依存するところがあってはいけません。
これは「技術で作る工場」のではなく「人の調子で作る工場」になってしまっているということです。
あの人が休むと生産が止まる対策は、祈るだけ
生産計画や人員配置計画が立てやすいかどうかは、属人化している仕事があるかどうかが大きく影響します。
属人化した仕事が少なければ少ないほど、特定の社員に依存せず、どのような人員配置をしても、一定の生産数量の生産計画を立てることが可能となります。
しかし、例えばある重要な作業が、○○さんにしかできないという状況があれば、この人をその作業から外した人員配置、生産計画を立てることはできないのです。
したがって、〇〇さんが休まないことが前提の生産計画が立てられてしまい、その計画通りに進めるには、〇〇さんが休まないことしか策はありません。
本人に休まないで、とお願いすることはできませんので、あとは祈るだけです。
ベテランが辞めた時が事業の幕引きを考えるとき
重要なノウハウを持ち、それをだれにも伝えてこなかった担当者の転職や退職は、その事業を続けることができるのかという判断まで伴うこともあり得ます。どの経営者も、これには敏感で〇〇さんが退職するまで、あと数年のうちにその技術を誰かに継承しなければならない、という課題意識は持っています。
設備を導入すれば解決するのか、本当に〇〇さんにしかできないのか、△△さんにやらせてみてはどうか、あるいは、この技術を使わない製造方法はないのか・・・。など様々な対策を打っていることでしょう。
一方で、属人化した仕事とは、重要な技能・技術だけに限りません。
この方法は、あのメモを見ればわかる。
この材料の特性は、取引先の担当者にこう伝えてある
手作業でもいいが、あの治具を使えばもっと簡単にできる
などのように、できる土壌があるにもかかわらず、その情報が行きわたっていないために、特定の社員だけのノウハウになっていることの方が圧倒的に多いものです。
この状況のために、周囲の社員からも、あの仕事は〇〇さんにしかできない難しい仕事、という間違った認識がされてしまうのです。
だれでもできるようなことなのに、誰もそれをしないことにより、業務が回らない、組織が機能しないという状況が起これば、当然事業の継続も困難になってきます。
だれでもわかるだろうと思うようなことやその場で考えれば何とかなるようなことでも、知らない、分からないでは仕事は進みません。
OJTが「やってみせ、言って聞かせて」3年経過
属人化をなくすには、そのノウハウを持っている人が他の社員にそのノウハウを教える場面が必要です。それを一般的に「OJT」というでしょう。
みなさんの工場では、どのようなOJTが行われているでしょうか。
一時期、OJTのやり方について、このようなフレーズがもてはやされました。
「やってみせ 言ってきかせて させてみせ 褒めてやらねば人は動かじ」
日本海軍司令官山本五十六の有名な言葉です。
情報統制された軍事下の、軍隊のトップが発した言葉です。現在はネット社会で情報が溢れ、個人が自由な判断ができる時代です。すべてをそのまま正しいというには少し苦しい部分もありますが、指導する側の心がけとして時代は変わっても変わらない大事なことが含まれている言葉だと言えるのではないかと考えています。
ベテランの社員ほど、この言葉はよく聞いていることでしょう。
したがって、指導方法もこれに合わせて行われることが多いのです。
「やってみせる」「言って聞かせる」のは教える側の自分が自分のペースで行うことができます。
しかし、「させてみる」「ほめてやる」は相手のあることです。「まだまだお前にはさせられない」「ほめてやれるような作業になっていない」とベテラン社員の属人的基準で評価されてしまい、なかなかOJTが進まないのです。
やってみせ、言って聞かせているうちに3年経ってしまい、習う社員にとっては、いつまでも教えてもらえないと思い、周りの社員からは、いつまでも作業が身につかない社員と思われてしまい、組織内におかしな空気が流れるのです。
そんな状況であれば、人材育成の負担やコスト増加が収まることはなく、それだけコストをかけたのに何の成果もないということが起こります。
こんな事業をだれにも引き継がせたくない
これまでの説明で、属人化により発生してしまう問題は、事業に悪影響しかないことがお判りいただけたのではないでしょうか。しかし、これはあくまでも問題の一部です。
このような事業を、だれが引き継ぎたいと思うでしょうか。
同族経営の工場であれば、息子がそんな工場を引き継ぎたいと思ったとき、社長はどうしますか?喜んで継がせますか?
息子は息子なりにプライドがあります。跡を継げば、自分が継いだからには、○○家のプライドにかけて必死で何とかしようとはするでしょう。
したがって、その後に待っているのは、息子からの強い反発でしょう。「こんな組織じゃダメだ!」と言われるのは間違いありません。
そうならないよう、社長のプライドにかけて、今のうちから、自分の問題のせいで、息子にまで迷惑をかけるようなことがないよう、属人化による問題に対して強く向き合うことが必要です。
製造業でなぜ属人化は解消できないのか
このように製造業における属人化は多くの問題を引き起こしてしまいます。
一方で、属人化に課題を感じながらも、解消できない経営者は少なくありません。
ここからは、製造業でなぜ属人化が解消できなくなってしまうのかについて解説していきます。
「技能伝承」という美談が問題を隠蔽する
よくメディアで目にする、「この作業を習得するまでに20年かかった」「この作業をできるのは、もう〇〇さんの他いない」のように、特定の職人技を紹介し、その素晴らしさを伝える番組を目にします。
ものづくりの現場の作業が取り上げられることも多く、一般の人受けには良いのでしょう。
しかし、この状況、「20年もかからないで覚えられる手段を考えたことないのか?」「ホントに〇〇さんにしかできないのか?他にやりたい人がいないだけでは?」という疑問が浮かびます。さらに、「この会社は、〇〇さんがいなくなったら廃業だね」のようにしか、私には見えません。
その製品が、世の中から必要ないのであれば、「〇〇さんがいるうちに、次に誰かに教えなければならない」というようなことを考えなくても、世の中の需要が減少するとともに、その製品の生産、さらには工場の事業もフェードアウトしていくことも肯定する考えも必要かもしれません。せっかく身に付けた技術が誰の役にも立たないと知った社員は、喪失感しかないことでしょう。
しかし、属人化している状況を何とかしようとしている社長は、そのようなことは考えていないでしょう。事業を継続するために、だれでもその作業ができるようにと考えているはずです。
一方で、この技術は自分にしかできない、という状況にある〇〇さんにとって、それは心地のいい状況でしょう。自分の技術でこの会社は成り立っている、メディアに取り上げられるかもしれないような人材かも・・・と半ば勘違いを起こしているかもしれません。
技能伝承の難しさを演じているようにしか思えません。この影響からいち早く遠ざける手段を考えなければいけません。
マニュアル作成が目的化して誰も使わない
属人化対策でよく言われるのは、「マニュアル作成」です。
〇〇さんしか知らないその「ノウハウ」を言語化することはとても大事です。しかし、ノウハウを言語化することとマニュアル作成が一致していないことがほとんどです。
「だれでもできるように」と作られたマニュアルは、「だれでもできる作業」に向けてしか作ることができません。したがって、入社後すぐに携わることができるような簡単な作業からマニュアルを作成することになるでしょう。何もできない新入社員に、少しでも戦力になってもらうのに一番即効性があります。
そのマニュアルは、例えば、設備の動かし方を1~10まで、順にやっていけば自然と終っているようなもの。このような内容であれば、1度マニュアルを確認し、数回やってみればおおよそ作業ができるようになるでしょう。その後は当然マニュアルは必要なくなります。むしろ、その程度のマニュアルを何度も見なければならない社員は、「本当にやらせて大丈夫か?」と逆に心配をしなければいけません。
なぜこのように使われなくなるのか。
それは、ノウハウが書かれていないからです。
ISO9001認証審査でも、何に基づいて教育がなされているのか、その元データがあるかは確認されます。マニュアルがあるといって、先ほどの簡単な内容しか書かれていないものでも、あることには間違いはありません。マニュアルに属人化による問題が起こらないようにノウハウを記載しなさい、というような具体的な規格はありません。
したがって、ISOでも指摘されることもない、属人化が起こっていても現状回っているからOK、このような状況がとりあえずマニュアルを作った、というところまでで終わってしまい、マニュアル作成が属人化対策にはなっていないのです。
「うちは特殊だから」という思考停止
運送業、建築業、建設業、小売業、飲食業、様々な業界に作業をする人はいます。
運送業では運転免許証が必要で、建築や建設業では様々な重機などの免許が必要でしょう。小売業や飲食業はそれぞれ売るものが違っても作業内容がそれほど大きく変わることはありません。
一方で製造業は、金属加工、板金加工、電子部品、食品、縫製など様々な業種に分かれていて、作るものが全く異なります。さらに同じ金属加工業だとしても、企業ごとに技術的に異なる方法で加工を行っていたりします。これは、どの技術が良いかはそれぞれ顧客にどんなものを売っているかにより異なることでしょう。
したがって、そこで働く社員は、そこで身についた作業が、別の工場で生かせるとは限らないのです。
このような特殊な業界ですので、ホームページには、「自社独自の技術で・・・」という謳い文句があり、実際に他の工場が持っていない設備を持っていたり、他ではやらない加工方法をしていたり、企業ごとに差別化に努力しています。
しかし、この状況が「うちは特殊だから」という勘違いをさせ、だから〇〇さんしかできない、他の人が習得するには10年必要とか、なかなかそれに叶う人を雇うことができない、と問題がすり替えられてしまいます。
この状況から脱するには、作業の分解、分析を行います。往々にして、9割がたは誰でもできる作業で、残りの1割だけが難易度の高い、経験と習熟が必要な作業であることが多いのですが、この1割のことだけ捉えて「うちの作業は特殊だから」と、すべてがベテランのように経験のある社員にしかできない作業と括ってしまうことで思考が停止し、属人化対策の努力をしなくなるという状況に陥るのです。
経験と習熟が必要な難易度の高い作業は1割しかない、と認識している社長はほとんどいません。なぜなら、作業の分解や分析を行っていないからです。したがって、簡単な作業から難易度の高い作業までひとまとめで見ているため、「すべてが難しい」「うちは特殊だから」と思い込んでしまうのです。
このような状況が、属人化解消の取り組みをストップさせているのです。
属人化問題解決の優先順位が低い
多くの工場が、経営改善のため、あるいは事業の成長、拡大のために様々な取り組みを行っていることでしょう。工場であれば、優先順が高いのは、設備導入し生産能力をアップする、営業を強化して仕事量、売上を拡大する、工場を増設し今まで作ることができなかった製品の開発に取り組む、などなど「攻めの取り組み」が行われているのではないでしょうか。
一方で、拡大した工場には追加の人員も必要です。だれがやっても同じ品質の製品を作らなければいけませんので、社員教育を行う必要がありますし、品質維持のための品質管理も今まで以上に強化するでしょう。
このようなことを進めるには、実は「属人化問題に触れない」方が都合がいいのです。
今いる人材で事業の成長、拡大ができているのですから、わざわざ○○さんの仕事のやり方を細かく分析したり、ノウハウを他の人に教えさせたりする必要性を感じません。むしろ、「○○さんが頑張ってくれているから会社が成長できている」と感謝しているでしょう。
△△のことは〇〇さんに聞けばわかる、〇〇さんに任せておけばよい、という状況は、責任者が明確で仕事が回っている証拠です。誰がやるのかが明確になっていることの方が重要なのです。
したがって、〇〇さんのノウハウを誰かに引き継がなければ事業が拡大できない、これ以上の成長はない、〇〇さんが突然辞めると言い出した、という「危機」が起きない限り、〇〇さんに依存した状況は続くのです。
属人化問題は、目に見える損失を生まないため、むしろその人に任せた方が仕事がスムーズであるため、優先順位が下がり続けます。しかし、それは問題を先送りにしているだけなのです。
5S活動では属人化は解消できない理由
属人化しやすいことの代表的なものが、5Sです。
整理・整頓・清掃・清潔・躾、とだれもが知っていることでしょう。
工場内のいらないものを捨てたり、使いやすいようにモノを片付けたり、汚れはふき取ったり・・・工場に限らず、家でも行っているようないたって普通のことです。
重要なのは、どれにも終わりがありません。
5S活動と称して、生産ラインをきれいにする計画を立て、実行し、作業者が使いやすいモノの位置になったり、移動距離が短くなって負担が減ったり、様々な効果があります。
使いやすい、移動距離が短い、などどこまで突き詰めてもキリがありません。
また、特定の生産ラインのことだけに特化して整理整頓すれば、別の生産ラインに悪影響が出ることもあります。
この状況を、もっとこうすれば、ああすれば、と追及することも大事なことですが、「どこまでやればいいんだ?」「何が正解なのかわからない」と社員が思ってしまったらもう終わりです。良い状態を追求することが、基準を不明確にしていることになり、これこそ属人化による終わりのない5Sなのです。
最初のS、整理の段階で止まることでしょう。
モノを捨てるには、ほとんどの場合、社長や上司の了解が必要です。なぜなら、社長や上司の了解を得て購入しているからです。社員が勝手に判断して捨てることはできません。
捨てる基準を、半年経ったからと決めたところで、その対象が50万円もするようなものだったらどうでしょうか。社長も上司も簡単にはOKしないでしょう。正に、社長の脳みその中にしかないノウハウなのです。
※関連記事:製造現場のムダを無くし効率化するには?現役経営者が事例を元に解説
経営者が属人化を解消するためにやるべきこと
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では、経営者が属人化を解消するためには何をやるべきなのでしょうか?
ここからは具体的な解決策について解説していきます。
まず経営者自身の「属人化」を解消する
「社長がいないと現場が回らない」という状況が、この工場の最大の属人化による問題です。
社長の本来の仕事は何でしょうか?
会社の方向性を決め社員に発信しなければいけません。生産スケジュールを作成し、社員に指示することではありません。
社長は会社の最高責任者です。したがって、さまざまな意思決定とリスクを負わなければいけません。生産ラインでトラブルがあったときに、生産続行するかの意思決定や、トラブル対応を自ら行うことや社員にどう対応すればよいか逐一指示することではありません。
組織づくりや人材育成の環境を整えなければいけません。社長以外は全員作業者、作業者の仕事は生産、社長の仕事は生産と生産以外すべて、という組織構造を作ってはいけません。人材育成も必要ですが、社長が社員一人一人に作業指導をする必要はありません。
ヒト・モノ・カネ・情報の資源をどう使うかを決めるのが社長です。社長というヒト資源を生産現場に割り当てていてはいけません。その状態で、モノ・カネ・情報という資源をだれがどのように割り振るのでしょうか。また、割り振るための資源も得られるチャンスを失います。
社外との関係構築も社長にしかできません。いくら担当者レベルでの接点があっても、社長と社外の決裁権者とのレベルの話はできません。目先の仕事は担当者レベルで回るでしょうが、将来を作るのは社長しかいないのです。
ちょっと触れただけでも、これだけ社長の仕事は重要な内容です。社員に任せることはできません。
まずは、社長が現場でやっていることを、社員に任せられるよう言語化する、あるいはIT化して社長の関与を最小限にしなければいけません。
社長が現場から離れなければ、特定の社員に依存しているという属人化問題に対応できません。「〇〇さんがいないと回らない」と嘆く前に、「社長がいないと回らない」状態を解消することが最優先です。私自身、「月1回の会議だけで工場が回る」という仕組みを作りましたが、そのようになる前の段階の、「生産現場に入らなくてもよい」という状況ができて初めて、全体の属人化問題に本格的に取り組めるようになりました。
「個人の能力」に頼る工場から「仕組みで動く」工場へ
社員一人一人のスキルアップはとても重要です。それがなければ工場の生産能力向上はありません。
しかし一方で、社員のスキルアップ任せの生産能力向上はかなり問題です。
社員の退職、欠勤、有給休暇の取得によって、悪影響が顕著に表れてしまうためです。
それだけではありません。社員のその日の気分、体調にも左右されますし、だれと一緒に仕事をするかということも作業効率に大きく影響します。当然、誰と組んでも同じ成果が出せなければ仕事とは言えませんが、人間がすることですからどうしても影響は出てきます。実は、組織が機能するかどうかということと密接に関係することです。人の好き嫌いを言っているのではないことはご理解ください。
つまり、社員個人の能力がいくら高くても、その能力を発揮する環境がなければ生産能力の向上はないのです。
人のことだけではありません。せっかく機械をメンテナンスできる知識や技術があるのに、買うのはもったいないからと、道具も時間も与えなければ、知識や技術を発揮する環境ではありません。
また、せっかくパソコンの知識が豊富な社員がいたとしても、PCも与えず、生産の作業だけさせていたのでは、生産性向上の機会さえありません。
社員が退職したから穴埋めのために募集するという採用の仕組みが、永遠に儲からない構造を維持しているかもしれません。他の社員が持つ他の能力を活かすことで、生産性向上につながるかもしれない種を見つけることが必要で、それを活かす環境を作ることが、仕組みで動く工場へと発展していくのです。
社長は現場から離れて社長の仕事をしなければいけませんが、現在、現場にいる社長であればどの社員がどんな能力を持っているのか、ある程度把握していることでしょう。しかし、その能力は現在の生産現場の環境下での話であり、生産ラインや働き方などの仕組みを整え、環境が変われば、もっと能力を発揮することは可能なのです。
属人化している業務の「見える化」と優先順位づけ
どんな問題解決にも「見える化」はとても重要です。
属人化の問題は特に、「見える化」しただけで、8割がた問題解決が終了したと言っても過言ではありません。特定の社員の脳みその中にあるノウハウを、言語化することこそが「見える化」だからです。
だれもが「〇〇さんが話してくれれば」と思っていて、そして、それを知りたがっているでしょう。
しかし、目先の業務を優先するがために、話す時間、聞く時間さえ確保されないのです。
また、ベテラン社員側からすれば、「自分ができているのだから、みんなも考えればできるだろ?」とか「自分は教えてもらっていない。自分で考えてやってきた。だからみんなも自分で考えてやれ!」と思いがちで、説明が必要だとは頭で理解はしながらも、自分の今までの経験を押し付けがちです。
このような状況と対峙しながら、何から見える化することが必要なのか、何からであれば見える化ができそうなのか、必要性と実現性を考えながら優先順位づけし、取り組むことが必要です。
そして、「見える化」にこだわりすぎることも危険です。ベテラン社員のやり方しかないと思い込むことが危険です。それでは、見える化ができ、他の社員が習得できたとしても、生産能力がそれ以上になることはありません。「見えなくてもいい」から別の手段を考える、という選択肢も必要です。
作業の分解とIT化できる部分の切り分け
限られた人材で工場を回すには、人はできるだけ人にしかできないことに集中し、人でなくても良い作業は機械化、あるいはIT化していくことで、人の負担を減らすことが重要です。
そして、属人化しやすいのは、特定の社員により行われる判断と特定の社員が独自に構築した作業プロセスや計算方法です。これをIT化することにより人に頼らない、だれがやっても同じ結果が出る仕組みづくりをしていくことが重要です。
先に述べた通り、作業の分解と分析により、業務の9割がたは誰でもできる部分、残りの1割が知識や経験が必要な部分というように分けらます。
この作業をしなければ、何が属人化している状態なのか、そもそもわかりません。
そして、分解すれば初めて、「この部分は機械化できる」「この判断はIT化できる」という選択肢が見えてきます。人でなければならない作業なのか、機械やITに任せられる作業なのか、という分析が可能になるのです。
ただし、機械やITに関する知識がなければ、「これをITで自動化できる」というイメージすらわきません。したがって、IT化によってどんな作業が省略できるのか、という情報収集は必要です。これを怠ると、パッと目に入ったカタログやSNSのキャッチーな謳い文句に惹かれ、現場に導入できるかどうかも検討することもないまま、高額なシステムを購入してしまう恐れもあるのです。
カモになってはいけません。きちんと情報を取れば、月数千円で十分なIT化を実現することは可能なのです。
実際に私の工場では、何百万もするような高額な生産管理システムや在庫管理システムは導入せず、月数千円で成立しています。
私がかかわった工場の中で、ITツールを利用した作業の分解により、属人化問題の解消を行った事例を紹介します。
その工場では、分解した作業データを、社内で構築したOJT管理システムに入力しています。このシステムでは
どの作業を誰が対応できるのか
作業の難易度
作業を行うために必要な知識や技術
作業を任せるときの判断基準
など、様々な情報を一元管理できるようにしました。
このデータを見れば、「この作業は〇〇さんしかできない」という状況が一目瞭然です。そして、「なぜ〇〇さんしかできないのか?」を分析すれば、暗黙知となっている判断基準や、共有されていないノウハウが浮き彫りになります。
それを一つずつ言語化し、システムに登録していく。これにより、属人化状態の作業を減らしていく、あるいは生み出さないことができるようになり、新入社員にも任せられる作業が明確になっていきました。それと同時にOJTも計画的に進めることができるようになったのです。
属人化の解消を目的としたシステムはありません。ほとんどのシステムは導入すると結果的に属人化した作業が明確になる部分がある、というだけの結果論を言っているのです。しかし、月数千円のツールでも使い方ひとつで、これだけのことができるのです。重要なのは、いろいろなことができる高額なシステムではなく、「何を管理し、何を見える化するか」という設計なのです。
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まとめ
属人化問題は、放置すればするほど、どんどん問題は大きくなっていきます。多くの場合、「自分でやった方が早い」と、目先の生産、目先の処理を優先し、属人化問題は解消されていません。このことにより後継者ができないこと、特定の人に負担がかかっている状態、ノウハウが工場のものにならないことなどなど、多くの重要な問題が解決しません。そしてそれを社長がやっているとしたら、社長のやるべき仕事のとても優先度の高いものであるはずです。
しかし、急に完璧なことはできませんし、いざ時間ができたからと言って何から見える化したらいいのか、そんなことを考えているうちに時間はあっという間に過ぎていくでしょう。
まず着手すべきは、社長自身が現場から離れられる仕組みを作ることです。 「1日でも社長が現場いなくても工場が回る状態を目指す。」それができて初めて、全体の属人化問題に取り組む時間と視点が生まれます。
さくらブルーでは、「工場経営自動化コンサルティング」で現場を社員に任せ、社長が次のビジネス展開に専念できる仕組み構築のノウハウを提供しています。
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